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28 氷の城

 リリーが牢屋に入れられた後、わたしは誤解を解こうとカークさんとスケーリーさんを説得していました。

 とりあえずわたしとリリーが補導されるような関係ではないと信じてもらえましたが、リリーを釈放してほしいと頼むとスケーリーさんは――兜で表情は見えませんが――渋い顔で腕を組んでいるカークさんを見ました。


「事情はわかったけど、どうするカーク?」

「関所で騒ぎを起こしたのは事実だからな、一晩は反省してもらう」


 生真面目そうなカークさんをこれ以上説得するのは無理そうです。

 面会もできないと言われて、わたしは詰め所の仮眠室に泊まることになります。


「ホットミルクをどうぞ。ここら辺は寒いから大変でしょう」


 窓から外の景色を見ていると、仮眠室に入ってきたスケーリーさんにホットミルクをもらいます。

 仮眠室のベッドに並んで座って話をします。


「この関所は最近できたんですよね、なんでですか?」

「言ってもいいのかしら……」

「あの、言っちゃいけないなら別に……」

「いいわよ。国境付近にこの国の砦があるでしょう、その近くに一晩で氷でできた城が現れたの」

「一晩で!?」

「人間の仕業ではないでしょ。国は魔族が本格的に侵攻してくると考えて、砦の人員を増やしたり、ここに関所を作ったりしているの」

「そうなんですか……」

「明日になったら関所を通っていいけど、国境付近に行くなら気を付けてね」

「ありがとうございます」


 国境付近どころか魔族の国に行くのですが、戦争になる前に急がないといけないです。

 スケーリーさんが仕事に戻ると、わたしはまた窓の外、氷の城がある方向を見ました。



 朝になってリリーが牢屋から出されると、真っ先にわたしを抱き上げてくるくると回りました。


「クロ様! 会いたかったです!」

「リリー恥ずかしいです」


 下ろしてもらいますが、カークさんとスケーリーさんがぽかんとしていました。


「君たちは仲がいいんだな」


 顔が赤くなるのをごまかすように、リリーの背中を押して外に出ます。

 カークさんとスケーリーさんは関所の扉を開けると、ずっと被っていた兜を脱ぎます。


「この地方は寒いから、カゼひかないようにね」スケーリーさんがほほ笑みます。

「……はい、カクさんスケさんも……」

「カクさんスケさん?」カークさんが首をかしげます。


 わたしはリリーの後ろに隠れると、背中におでこを擦り付けました。


「クロ様?」

「どうしたの?」


 スケーリーさんが顔をのぞきこみますが、わたしは視線を合わせないように逃げます。


「それじゃあわたしたちは行きますね」


 リリーがごまかすように笑うと、わたしをわきに抱えて関所を出ました。

 わたしは最後に、少しだけ二人の姿を見ます。

 道を進んで人目がなくなると、いつもの少女の姿に戻ったリリーがわたしを下ろしたので、わたしは近くの石に座りました。


「どうして泣いているんですか?」

「泣いてない……」わたしはうつむきます。

「あの人たちとそんなに仲良くなったんですか?」


 リリーがハンカチを取り出してわたしのぬれたほおを拭きます。


「そうじゃなくて……」

「そうじゃなくて?」

「…………二人が、パパとママにちょっと似てたの」

「ご両親に?」リリーがとなりに腰掛けます。

「うん。パパとママがもういないこと、ここに来てからいろいろなことがあって忘れられていたけど……」


 ここへ来る前、あの星が降った日にパパやママやわたしも……。

 また流れてきた涙を手で拭うと、リリーの顔を見ます。


「リリーはいなくならないよね……?」

「はい。ずっとそばにいますよ、クロ様」


 ほほ笑むリリーの顔を見たら、また涙が出てきます。

 また涙を拭いてくれようとしたリリーと目が合いました。その紅い瞳を見ていたらリリーの顔が近付いてきて……「むぎゅっ」鼻をつままれました。

 びっくりして涙が止まると、リリーは顔をふせて「日が暮れる前に行きましょうか」と言うと、わたしの手を引いて足早に道を進みます。

 リリーの後ろ姿を見ると、耳が赤くなっていました。


 その日は国境付近の街の宿屋に泊まりましたが、どうやってここまで来たかはよく覚えていません。

 宿のベッドに二人並んで寝ますが、わたしはずっとある事が気になって眠れませんでした。

 ――リリーはあの時わたしにキスしようとしたんでしょうか?




 翌日ちょっと寝不足気味になりながら起きると、氷の城について何か情報がないか探すために冒険者ギルドへ向かいます。

 それらしき依頼書は出ていたのですが、国の軍隊からの特別依頼となっていて、実績のある高ランク冒険者しか受けられません。

 情報もスケさんから聞いた以上の情報はなかったので、防具屋で防寒着を買って装備を整えると、街を出て氷の城へ向かいます。


 氷の城の詳しい場所はわかりませんでしたが、近辺に行くと氷の城はすぐに見つかりました。

 つららが地面から生えてできたような氷の城は、遠目からもわかるほどそびえ立っていたからです。

 城の前まで来ると、氷の城の周囲は凍っていて、そこかしこに氷のトゲが生えていました。


「ねえリリー、ギルドに依頼が出てたのに軍隊の人たちの姿がないけど……」

「攻めあぐねているのかもしれませんね」


 周囲を見渡しても、人の姿どころかモンスターや動物も見当たりません。

 リリーが城の門を開けて中に入ると、わたしも後ろに付いて中に入ります。

 すると、城の門が背後で音を立てて閉まり、開けようとわたしが引っ張ってもびくともしませんでした。


「どうやら歓迎されているようですね。ここに魔王がいるのは間違いないでしょう」


 リリーから離れないようにくっついて城の中を探索します。

 城の門が閉じてから、防寒着を着ているのに骨にまで食い込むような冷気がわたしたちを取り囲んでいました。


 寒さに震えながら探索を続けていると、城の食堂らしき場所に出ます。

 つららのシャンデリア、氷のテーブルに氷のイス、氷の皿と、氷づくしの食堂に、なぜか巨大なタコ焼きが置いてありました。

 寒さと急な空腹を覚えたわたしは、目の前のホカホカのタコ焼きをつかみます。


 かぶりつくとタコ焼きが「ひゃあんっ」と鳴きました。




「ク、クロ様!? なにをするんですか!?」


 城を探索中、食堂を抜けて大広間に出たところで、クロ様が突然わたしの触手をつかむと、かみついてきました。

 突然の刺激に思わず変な声を出してしまいます。


「ク、クロ様いけませんわこんな場所で……スキンシップが大胆過ぎます……――クロ様?」


 いつもなら、かわいいジト目でこちらを見てくるはずのクロ様は、まだわたしの触手をかじっていました。


「クロ様、どうしたんですか?」

「寒さで意識がもうろうとしているようですわね」


 いかにも気位の高そうな女の声がして振り返ると、広間の先に氷の彫像がありました。


「ごきげんよう、邪神さん」氷の彫像が笑います。


「あなたが魔王で――ひゃんっ!」


 後ろのクロ様を涙目で見ると、触手に抱き枕みたいにしがみ付きながらかじっていました。

 目の前の彫像は持っていた扇子で口元を隠して楽しそうに笑います。


「そう、私がこの城の『氷の女王』、長女バーバラですわ」

「たった一人で出迎えとは、余裕ですね」

「それはちょっと違いますわ。私が本気を出すと皆凍ってしまいますの」

「力の制御もできないんですか? ダメな魔王ですね」

「――フンッ。口の減らない邪神ですこと!」


 バーバラが扇を振ると現れたつららが飛んできます。

 それをかわしてバーバラに向か……おうとしたところでクロ様に触手をかまれて、膝の力が抜けて地面に膝をつきます。


「クッ魔王め、なんてひきょうな……」

「私は何もしてませんわよ?」


 ジト目のバーバラが扇子を振るって、巨大なつららをいくつも投げ飛ばします。

 力が抜けている状態でクロ様をかばいながら、なんとかつららを避けます。


「ああっ、もう! クロ様に触手を甘がみされながら戦うなんて拷問です! 二人っきりの時にお願いします!」


 クロ様がしがみ付いている以外の触手でバーバラを攻撃します。

 しかしバーバラには一つも当たりません。その上、時間がたつほどに精彩を欠いている気がします。

 クロ様に触手をかじられているせいだけじゃないような……。


「……そういえば、気が付きまして? 気温が下がっているのを。――本気はこれからですわ」


 バーバラが力を開放すると、城の中で強烈なブリザードが吹き荒れました。

 腕で顔をかばいながら、なんとか耐えます。


「さすが邪神。この攻撃にも耐えますのね。――でも、そこの人間はどうでしょう?」


 言われて、クロ様がしがみ付いている触手に神経を集中させます。とっさにクロ様を触手で包んだものの、触手の中のクロ様の気配が弱くなっていました。

 このまま攻撃が続けば、クロ様だけでなくわたしも完全に凍り付いてしまいます。


「私の凍気を浴びてどこまで持つかしらね?」バーバラが愉悦に顔をゆがませます。


「わたしはなんておろかなことを……」

「今頃気付いても遅いですわ」

「――クロ様とのスキンシップを堪能して、瞬殺できる相手を放っておいたら、クロ様が凍りそうになるなんて……!」


 これではクロ様のお嫁さん失格です……!

 わたしが後悔していると、バーバラが表情のない顔でこちらを見ていました。


「……今、私を瞬殺できると言いまして?」

「そう言いましたが?」


 わたしが小首をかしげると、バーバラが持っていた扇子をへし折ります。


「ふざけんなっですわよ!」


 ブリザードの激しさが増し、広間の中がまるで巨大なミキサーのようにうなりを上げます。


 わたしは元の姿に戻ると、さらに、城を破壊しながら巨大化します。

 霜を払うように触手を振ると、氷でできた城はガラガラと崩れ落ちます。

 バーバラのブリザードは強烈ですが、自然現象に比べて範囲が小さく、元の姿に戻れば大したダメージになりません。

 自分のブリザードを効果的に使うために用意しただろう城を破壊されたバーバラが、ぽかんと私を見上げていました。


「なっ――」

「では、ごきげんよう」


 触手を振り下ろして、バーバラをぷちっとします。

 わたしは地面に人型に埋まったバーバラを確認すると、クロ様を連れて帰りました。

目標にしていた十万文字達成しました、ありがとうございます!

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