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2 出会い

 ジャラン、ジャラリ。

 反響を伴った音が鼓膜に響きます。


 わたしの意識が戻ると、洞窟のような場所であお向けに倒れているのがわかりました。

 視界を左に向けると、何か巨大なものが薄暗い洞窟の半分をふさいでいるのが見えました。


 目を凝らします。


 両腕を鎖で縛られた巨大な女の人でした。


 上半身は人間のようにも見えますが、その下半身はタコのような触手がうごめいていました。


 これはどう見てもラスボスですね。

 わたしはそっと目を閉じました。


「わたしを目の前にして寝るとはいい度胸ね」


 薄暗い洞窟に似つかわしくない、とてもきれいな声がしました。

 触手が伸びてきてわたしの体に巻き付くと、巨大な女の人の目の前に持ち上げられます。

 きれいな声はラスボスさんでした。


「寝てません。死んだフリです」

「……しかも、わたしを目の前にして眉一つ動かさないなんて」


 違います、今ものすごくビックリしているのですが、表情筋が仕事をしていないだけです。

 ラスボスさんの顔は銀色の長い髪に隠れて見えませんが、髪のすき間からのぞく紅い瞳がこちらを観察しています。


「あのクソ女神、わたしを封印しておきながら、封印を解いてほしかったら人間の従者になれだなんて……」

「従者?」


 まさか女神様が言ってた従者って、ラスボスさん……?


「それでどんな人間が来るかと思えば、ただの子供じゃないの」


 触手でほっぺをグリグリされます。


「なめられてるのかしら」

「あ、あの」

「何」


 紅い瞳がこちらをにらみます。


「わたしの従者になってくれたりは……」

「ならないわよ」


 取り付く島もありません。


「好感度カンストしてるのにダメなんですか……」

「好感度?」

「わたしに好感を持ってたりはしませんか」

「んー……。そういえば人間って虫酸が走るほど嫌いだけど、あなたには何も感じないわね」


 好感度カンストしててその程度なんですか。

 ラスボスさんからすると人間はアリみたいなものなんでしょうか。


「じゃあ、死ぬ前に一言あったらどうぞ」

「見逃してくれたりは……」

「ないわね。あのクソ女神もわたしの返事を待たずにここにあなたを送ってるんだから、そういうつもりだったんでしょ」


 そういうつもりってどういうつもりですか。

 背筋が寒くなってきたので、わたしはそれ以上考えるのをやめます。


「本当に言い残すことは何もないの?」

「それなら……」


 もう死ぬのは逃れられないようなので、せめてものお願いをします。


「あなたのきれいな瞳を見ながら死なせてください」

「えっっ!?!!?」


 ラスボスさんの動きが止まります。

 長い銀髪からのぞく紅い瞳は宝石みたいにキラキラしていて、初めて見たときにりんご飴に似ているなと思ったのです。

 なので、死ぬならせめて元いた世界を思い出しながら死にたいと思ったのです。


「わ、わたしの瞳を見てきれいだなんて初めて言われた……『世界中の血の涙が集まってできたようだ』とかは言われたことがあるけど……」


 ラスボスさんは赤くなったほおに両手を当てて身をくねらせます。


「――はっ! うまいことを言ってわたしをだます気でしょう。わたしのこのおぞましい触手を見ても同じことを言えるの?」


 ラスボスさんが広げた触手をうごめかします。

 さっきまで赤紫色だった触手は、今は興奮しているのか、ゆでだこみたいに真っ赤です。


「おいしそう」

「お、おいしそう!?!!?」


 ラスボスさんの触手がピーンッと伸びると、せわしなくうごめきだします。

 いっしょにわたしに巻き付いた触手もうごめくので、くすぐったいです。


「そ、そんな、食べちゃいたいほどかわいいだなんて……ああ、そんなの初めて……」


 耳まで真っ赤にしたラスボスさんが、こちらに背を向けて何かつぶやいています。

 もしかしておいしそうだなんて言ったから怒らせてしまったのでしょうか?


「あ、あの……お名前はなんと言うのですか」


 ラスボスさんが背中越しにこちらをチラリと見ながら聞いてきます。


「クロです……」

「クロ様ですね。お年はいくつですか?」

「十三です」

「ご趣味は?」


 今から殺される相手になぜ質問責めにあってるのでしょう。

 触手が一本伸びてきてわたしの頭をなでると、ショートボブにした髪を一房巻き付けます。


「あ、あの」

「はっ! ごめんなさい、わたしったらはしたない。きれいな黒髪だと思って」


 髪から触手を離すと、はずかしそうに身をくねらせます。

 さっきからラスボスさんがくねくねすると触手もくねくねするのでくすぐったくてしょうがないです。


「殺さないんですか?」

「そ、そんな! ご主人様にそんなことしません!」


 ん? ご主人様?


「それってつまり……わたしの従者になってくれるってこと?」

「はいっ、もちろん」


 ずっと触手に持ち上げられていた体を、やさしく地面に下ろされます。

 ラスボスさんはあらためて見ても大きくて、見上げていると首が痛くなってきます。


「わたし、ご主人様って感じじゃないけど……」

「そんなの関係ありませんわ! ああ、あのクソ女神は気に入りませんが、クロ様に出会えた運命は感謝しますわ!」


 下から見上げる、山のように大きなラスボスさんのくねくねは迫力満点です。

 気付くと、顔を手で覆ってくねくねしてるラスボスさんの、両腕にあった鎖がなくなっていました。

 あれが封印だったんでしょうか?


「クロ様は魔王を倒しに行くんですよね、さっそくここを出て向かいましょうか」

「ラスボスさんは魔王じゃないんですか?」

「違いますよ?」

「すみません、大きくて強そうだったので魔王だとばかり。だとすると、魔王はもっと大きくて強いんでしょうか」

「さあ? 大昔に一度だけ姿を見かけましたが、大きさは人間ぐらいでしたね」


 ふむ、きっと変身して強くなるタイプですね、ゲームでよくあるやつです。

 あ、そういえばラスボスさんのお名前を聞いていませんでした。


「あの、お名前を聞いてもいいですか」

「やだわたしったらクロ様に質問するばかりで、名乗ってませんでしたわ」


 ラスボスさんは手で銀色の髪の毛をなでつけると、胸を張ります。


「リリーです。気軽にリリーと……ハニーと呼んでくださってもかまいわせんわ」

「うんわかったリリーって呼ぶね」


 残念そうな顔をしたリリーが「それではここを出ましょうか」と言いました。

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