表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/33

17 洋服を買いに

「あの、リリー。洋服を買いに行きませんか?」

「クロ様のですか」

「リリーの服です」

「わたしはこれでいいです」


 ハタキで棚の掃除をしていたリリーはそう言うと、メイド服をつまみます。

 リリーはわたしと出会ってからずっとメイド服です。リリーはすごくきれいなのに、他の服を着ないのはもったいないです。

 でも、普通に言っても着てくれないでしょう。なので考えました。


「リリー、デートに行くのにメイド服はなしですよ」

「…………デート?」

「はい」


 リリーが持っていたハタキを落としました。


「クロ様……。わたしを、今、デートに誘いましたか……?」

「はい、まずはショッピングに行きましょう」


 小刻みに震えだしたリリーが、額をぺちんっとたたきました。


「クロ様からデートに……これはもうプロポーズでは……?」

「さあはやく行きましょう」


 友達同士でもデートと言ったりするので大丈夫と思いましたが、リリーの思考が飛躍し始めたので急いで宿を出ます。

 行くのはもちろん、冒険者向けの装備品の店ではなく、街で一番大きなデパートです。


「今日はわたしのオゴリですから、リリーは好きなのを買ってくださいね」


 この日のためにバイトをがんばったんですから。


「そんな、クロ様。お金ならわたしが……」

「リリーにたまには返させてください、わたしからのプレゼントですから」

「わ、わかりました」


 リリーはほおを染めると、うなずきます。

 デパートに入ると服のお店を探します。初めて来ましたが広くて迷いそうです。


「リリー、気になるのはあります? ……リリー?」


 となりを見たらリリーがいません。辺りを見回すと、店の前でドレスを見ているリリーがいました。


「あの、すみません」

「なんでしょうか」店員さんがリリーのそばに来ます。

「ウェディングドレスはありますか?」

「ウェディングドレスは……」

「リリー、わたしたちには早すぎます!」


 リリーの腕をつかむと、急いで店を離れました。


「ああ……将来のために買っておこうと思いましたのに」

「それは将来にしてください」


 そもそも、将来わたしたちが結婚するかどうかもわかりませんし。

 ……別にリリーがイヤというわけじゃないんですが、その、自分の気持ちがわからないというか、考えるのが怖いというか……。

 頭を振って思考を振り払うと、わたしたちぐらいの女の子がいっぱいいるお店に入ります。


「あら、メイド服? かわいいですね」


 わたしたちに気付いた女性の店員さんが話し掛けてきました。


「メイド服もかわいいですが、他の服も着てほしいんです」

「どういう服がいいとかあります?」

「服はくわしくないので、店員さんに選んでもらってもいいですか?」

「わたしとクロ様はこれからデートですので、それにふさわしい格好を二人分選んでもらえますか」

「え、わたしも!?」

「もちろんです。クロ様のほうの服の代金はわたしが持ちますね」


 わたしの分は必要ないと思うのですが、リリーが乗り気になってくれているので、断れません。


「かわいいカップルさん二人ともコーデできるなんて、お姉さんハリキっちゃおうかしら!」


 まずはわたしから、とお姉さんがいくつか持ってきた服を試着します。


「どうですか、リリー」

「今すぐ結婚しましょう」

「……結婚はしませんが、気に入ったんですね」

「はい。ここの服は素材もいいですが、防御力も高いですね、かなりの技術を持った人物が作ったと見えます」

「お客さん、わかりますか」お姉さんの目がキラリと光ります。

「ええ。クロ様はか弱くて鎧を着れませんからピッタリですね」

「よろしければ、他にも特別な服をご用意できますが」またキラリと目が光ります。

「お願いします」

「ではこちらへどうぞ」


 店の奥、お得意様向けという部屋に通されます。


「当ブランドのデザイナーはもともと冒険者に装備を作ってまして、防御力の高い装備もご用意しています」


 そう言うと、お姉さんは白いゴスロリ服をわたしに着せます。

 白いゴスロリ服はちょっと魔法少女っぽいですね。わたしには似合わない気がするのですが、リリーは喜んでます。


「こちらの装備はある便利な機能が付いてます」

「どんな機能ですか?」魔法少女になるんですか?



「光ります」


 ――ビカアアアアア!


「目が、目がぁ~!」



 目に会心の一撃を喰らったわたしが倒れると、リリーが回復魔法をかけてくれます。ビックリし過ぎて変な叫び声が出ました……。

 お姉さんをリリーがにらむと、お姉さんはきれいなジャンピング土下座を決めました。

 あの流れるような動き……お姉さんは何回土下座をするようなことをしたのでしょうか。

 わたしたちは大人なので、割引してもらうことで許してあげることにしました。

 わたしの服が決まったらリリーの服も買っていきます。リリーに似合いそうな服を選んでいたら、お姉さんが「こちらの特別な装備もお試しください」と黒いゴスロリ服を持ってきました。


「なんかイヤな予感がしますが、どうします?」

「試しましょう」

「ありがとうございます!」


 黒いゴスロリ服はシンプルで大人っぽくてリリーにすごく似合ってます。


「こちらの装備にも便利な機能が付いてます」

「ほう。試してみましょう」

「首のチョーカーに付いているボタンを押してみてください」

「これですか」ポチ。


 リリーがボタンを押すと、チョーカーからマントが広がります。


「すごいですね」

「マントが出るだけですか」

「いいえ、違います! この装備は……」


 広がったマントが風もないのにゆらめくと、わたしの体を包むようにまとわりついてきます。え、ナニコレ。


「自動で敵を包み込んで窒息させて倒します!」

「――えっちょっまっ……」

「それは便利ですね」

「――ふりほどけな……」

「はい! この機能は『一反木綿くん』と名付けました!」

「――た……す……け」


 危うく窒息するところで気付いたリリーに助けられます。

 店員のお姉さんはその間ずっと土下座していました。


「ううっ、わたしなんでこうなんでしょ……戦う力のない人の身を守るための服を作りたいのに、失敗ばかりで……」


 店員さんがどうやらこの服のデザイナーだったみたいです。


「失敗はしましたが、素晴らしい装備ですよ」リリーが励まします。

「ほ、本当ですか……?」

「はい。その信念を持ち続ければいつか成功する日がくるでしょう」

「そ、そうですね! いつかわたしの服で敵を駆逐してやります!!」

「敵は倒さなくてもいいと思うんですが……」



 さっそく買った服でデートをすることになったのですが、いろいろ誤算がありました。


『なあ、あの子すごいかわいくないか』

『モデルさんかしら』

『あんな子この街にいたっけ』


 わたしたちに周りの人の視線が集まります。

 いえ、それは正しくないですね。正確にはリリーに、です。

 リリーのことは前からきれいだとは思ってましたが、こんなに人の視線を集めるとは思っていませんでした。

 いっしょに居過ぎて感覚がマヒしていたのかもしれません。

 当のリリーは、なぜか周囲に鋭い視線を走らせています。


「クロ様がかわいいからと言って、クロ様を不躾に見るのは許せません」

「リリー違うから、わたしじゃないから」


 リリーの機嫌が悪くなってしまう前に、手近なお店に入ることにします。

 あまり人がいない落ち着いた内装のカフェでリリーとケーキを食べます。

 食べたフルーツタルトは宝石みたいにきれいでおいしかったです。


 カフェを出ると、軽そうな男の子が声を掛けてきました。あ、イヤな予感が……。


「君、ここら辺の子じゃないよね、旅行?」


 当たり前ですが、話し掛けているのはリリーです。


「なんですか、ナンパですか」

「まあそうなるかな。おれここ地元だから穴場とかわかるよ、案内しようか?」

「いりません。妻とデート中なので」


 言うと、リリーがわたしの手を自分の手と絡めます。

 ちょっリリーさん!? わたしまだ十三才ですし、リリーも見た目はそれぐらいですから、そんなこと言ってもだれも信じないですよ!

 そもそも結婚してませんし!

 男の子は口をあんぐりさせてましたが、気を持ち直すと、軽そうな笑顔を浮かべました。


「彼女にしては地味過ぎない?」


 ――君、かわいいんだしさ。と言う男の子の言葉と、リリーが片手で胸ぐらをつかんで持ち上げたのはほぼ同時でした。




 とにかくリリーをなだめて、ぼうぜんとしている男の子を置いて逃げ帰ると、わたしたちはグッタリしてベッドに倒れ込みました。


「クロ様を地味とはなんですかもう……」


 リリーはほおをふくらませます。


「わたしは気にしてないよ、リリー」

「クロ様はやさしいです……」


 リリーの触手が伸びてきて、抱き寄せられます。


「はあ……、触手で感じるクロ様尊いです。――むっ、このスカートだと触手が伸ばしにくいですね」


 スカートを見ると、触手が窮屈そうでした。


「……ごめんね、リリー。買い物に付き合わせたのに、やっぱりわたしリリーのいつものメイド服が好きかも」

「実はわたしもそう思ってました」リリーが笑います。


「でもあの店で買った『一反木綿くん』は面白かったので、今度のクエストには着て行こうと思います」

「買ったんだあれ……」


 わたしはリリーに抱きしめられながら、メイド服のままでいいと言ったのは、リリーが取られると思ったからかもしれない、と思っていました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ