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Aチーム ジェットコースターのウワサ③


「よし、悲鳴をあげたところで、写真を撮ろう。はい、チーズ」


 思むろに、ポケットからインスタントカメラを取り出して、パシャリと一枚。

良いお土産ができた。帰ることができたら、現像が楽しみである。


「撮ってる場合じゃないょ!?」

「二、ニッキー先輩、こっち出口ですから早くッ!」

「ゾ、ゾンビですわ!ホラーですわ!」


 きゃあきゃあと喧しいことこの上ない。


「みんな落ち着け!パニックに陥って逃げ惑うと、大体死ぬ。ここは、ちゃんと分析をすべき―――」


 ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ。と、血が落ちる音は止まる。

 

 ぐんっっと、目の前の怪異が大きく飛び跳ねた。

およそ人間の跳躍力とは思えぬほどに、大きく、高く、空を飛ぶ。

血の飛沫を散らしながら、四人の頭上を越えて、背後へと回る様に。


「くっ!」


俊敏な動きであったが、何とか姿を見失わないように、懐中電灯の光で追う。


 何故、わざわざ背後へと回る必要があるのか。

 もしかすると、出口を塞ぐ為だろうか。

ある程度知恵が回ると、撤退の際には少し厄介かもしれない。


 などと、考えていると、ぐちゃりと音がした。


「あっ」


 残念なことに怪異さんは、着地に失敗していた。


「まあ、片足だしな」

「だ、ダサいですわ」

「今のうちに入り口の方から逃げましょうっ!」

「ぎゃあーーー!きもぃょ!!!??」


 間抜けな風体を晒す羽目となったわけであるが、生生にとってはどのような動作も良いBGM(悲鳴)を流すためのスパイスであるようだ。


 しかし、やや緊迫感に欠けてるのは如何ともしがたい。

暫し、間を空けて、ずるずると、怪異は立ち上がった。

どことなく、恥ずかし気な気もするが、気のせいかもしれない。


 けんっけんっと、飛び跳ねて。その場でくるりと、半周。

こちらに向き直る。片足立ちで立、左腕のこちらに向けて、右手を伸ばす。


瞳のない目で、物は言わず。ただただ、何らかの怨念をぶつけてきている。

言の葉はなく、訴える。お前の所為で、バラバラにされた、と。


「ちょ、そ、そんなの向けて握手とかですか!?」


「ぶ、部長に譲りますわ」


「にゃーーーー!ぎにゃあああーーーー!!!!」


 背後に回る部員達。情けなくも声は震えているものの、意識はしっかりと保っているのは及第点か。いや駄目だ。


 目の前の怪異は、今からお前らはバラバラにしてやる!とか、そういう怨念をぶつけてきているはず。そんな中で、握手とかいう発想なんて信じられない。


 君たち本当にオカルト部員ですか。


「お前ら――」


 部員達の貧困な思考回路に、苦言を呈すため声を出そうとする。

しかし、ぐいぐい背中を押されてしまい、言葉にはならなかった。


 おい、やめろ、押すんじゃない。


声にする前に、足がもつれた。一歩前に前に出る羽目となり。


「―――えっ」


 ぶんっっと、風を切る音と共に。

ぐちゃり、と。生暖かい血潮が顔を血で染めた。


鈍い音と共に、地面には蜘蛛の巣のような皹が走る。

僅かな窪みの中へ、血が諾々と流れ込み。

いびつで美しい、真赤な花が描かれた。


「いっ」

「きっ」

「ぴぃ」

「い「き「ぴゃっぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!」」」


犠牲一つ。ともすれば、三つの叫びが木霊する。

恐怖に塗れた声を聞いたところで、なおも満足せずに。

 

 

 地面から、ずるりと、右腕を引き抜いた。


 













「あ、危ね、うわっ血塗れだっ」


 鼻面に触れるか触れないかの数センチ。ぎりぎり掠めたような気さえする。

右手から滴った血飛沫が顔面へと掛かるのを防ぐことはできなかったが、僅かなところで直撃を避けることはできたようだ。


 上体を起こして、油断なく怪異と対峙する。


「全く、死ぬところだった」


怪異が右手を引き抜くと同時に、ぱらぱらと石の欠片が地面へと落ちていく。


床材は何でできているかは分からないが、人間の頭よりは固いはずだ。

怪異の右腕は、それを軽く凹ませることができる程度の威力を持っていた。


「みんなは照明係頼んだぞ」


 十分な凶器だ。生前はしっかりと、カルシウムを取っていたのだろう。

光を当てながら、避ける間などないと踏み、懐中電灯をポケットにしまう。


 と、同時に。


「ニッキー部長っ!?」

「部長避けてっ!」

「ひぃやぃぁああああ!!!!」


 部員達の掛け声。大きく横薙ぎに、怪異の左腕が振り回された。


右腕分には長くなっているリーチの分、後ろに避けるのは難しい。

ジェットコースター側へと飛ぶように避けて、座席を蹴り、そのまま入り口側の通路に着地した。


 ごうんっと、右腕がジェットコースターへと当たる。

ジェットコースターは、軋んだ音を立てて、僅かにぐらついた。

 

「やはり狙いはこっちか」


【START】ボタンを押したからか、ターゲットは固定されているらしい。


 怪異はこちらへと向き直り、再度、飛び跳ねた。

 

 大きな跳躍と共に、狙いを定めたのか。

地面へと着地する前に、こちらへと正確に左手で右腕を叩きつける。

が、済んでのところで、後方へと転がるようにして、避けた。


 ドンっと、地面がくぼんで破壊の跡が残る。


 怪異は、腕を引き抜きつつも、べちゃりと地面へと倒れ伏す。

しかし、すぐさま、器用に片足で立って。けんけん、と半回転。


 こちらへと向き直る。


「うわああああ!!!!にぎぃゃあああ!!!!!」


 鈍い音が響くと、生生がぎゃあぎゃあと喚き散らして、喧しいことこの上なかったが、しっかりと光は当てて仕事をしているので許してやろう。

 

 しかし、このまま避け続けるのも体力的には厳しい。何か、良い手はないか。 


視界に映るもの。怪異と、後一つ。僅かに傾いたジェットコースター。

これまでの怪異の動き。ともすれば、残る手は一つ。


「みんな!先に出口まで、走れ!!」


 部員達へと指示を出しつつ、グラグラと揺れているコースタへと飛び乗った。

ぐらりと、僅かに揺れて。それでも踏みとどまる。


「ど、どうするんですかっ!?」

「なるほど!行きますわよっ!薺!生原!」

「にぎゃっ!ひ、引っ張らないでっ」


 麗子様はいち早く意図に気が付いてくれたのか、薺と生生を引っ張り、出口だろうと思われる奥の通路へと走り去っていく。


 徐々に光が遠ざかり、周囲は暗くなった。


現時点での、怪異との距離はある程度、頭に入っている。


「あとは、こ、転ばないようにっっとっと!!!!?」


 ジェットコースターの席から席へと飛び超えて、怪異との距離できるだけ取るように動きながら、ポケットから懐中電灯を取り出した。


 光を灯しながら、怪異の一動作をしっかりと、見張りながら。


 ある程度距離取り、そうすると、大きくこちらへと飛んできた。

 ほら、先回りするように、大きく飛んで、振り上げた左腕をこちらへと叩きつけるために。



  風を切り裂く音がして、ひときわ大きな音が響いた。




 怪異の左腕で持った右腕は、叩きつけられた。

ジェットコースターを大きく凹ませて、ぐらりと車体は大きく軋み。


 連結部分がぶつんと切れた。

がらり、がららと、列車は線路から落ちていく。


いつかの日に、バラバラにした身体のように、列車もバラバラに壊れていく。 

  

 

 怪異の右腕を避けて、飛んだ先。入り口側ではない、出口側。

先がどうなっているかは分からないが、今のうちに、全力で逃げる。


 願わくば、出口が塞がっていないように。


「逃げるんだよぉ!!!!!」


ジェットコースターが崩れる音を聞きながら、振り向くことなく、全力ダッシュで出口と思われる場所へ走った。


 このまま回り込まれたりしたら、目も当てられやしないが、身体を起こすのに僅かに時間がかかっていたくらいである。ジェットコースターの崩壊に巻き込まれれば、僅かに時は稼げるはずだ。


 わずかな斜度のスロープを走り抜け、狭い通路を進みに進み、少しばかり折れ曲がる。


  その先は、白い光が満ちていた。


「ゴーーールっっっ!」


「ニッキー先輩無事で良かったぁ!」

「ふぅ、無事で何よりですわ」

「ぎゃあああ!お化けぇ!!!」


 部員達の思い思いの言葉は耳を通りすぎた。

バクバクとなる心の臓。身体の疲れは限界のようで、自然と膝が折れる。


「だっ大丈夫ですかっ!」


「部長っ!」


「うわっやっぱり駄目だったんだょ!」


地面に手を突くと、じりじりと熱を帯びており、痛いくらいに熱い。


 すぅと、息を吸い、はぁと吐く。


オカルトに遭遇して、何とか生還を果たした。この上ない実感を経て。


 心の底から湧き立つ、この想い。なんと喩えようか。


「……よし、次行くぞ!」


「あ、駄目だ。これスイッチ入ってる」

「村井さんはあっちですし……」

「も、もう僕は逃げるょ!こんなのやってらんないょ!離せぇ!離してょ!」


 聞こえない。聞こえなーい。


続いては、ドリームキャッスルへと参ろうか。




 













 

 

 

 

 




  




 ジェットコースターのウワサについてのメモ。


 昔、ジェットコースターにバラバラにされた人間の怪異か。

 運転室の【START】のスイッチが引き金かもしれない。

 押したものの命を狙う。左手で右腕を鈍器のように扱う。

 地面を破壊する程度には威力が高い。頭に当たれば死ぬだろう。 

 距離を取ると、人よりも高く飛び跳ねて、距離を詰めてくる。

 着地の瞬間に隙はあるにはある為、生還はできるかもしれない。



 


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