物語導入~メンバー合流~
K鉄道特急列車に揺られに揺られて、2時間と少しばかり。
M県U市の駅前に到着した。
地域の物産が駅前に売られている以外は、シャッターの下りた店が目立っており、やや閑散している。それなのに、駅の隣に広い駐車場が広がっているのは、如何せん土地が余っているのか、昔の観光地の名残からであろうか。
電車の窓から見える景色は緑が多くて、自然豊かな良い土地であると思った。
海も山もあるらしいし、食事も美味しいと評判の土地だ。余生を過ごすには良いかもしれないな。
そのように、老後のアレコレを鑑みていると、遠目でも分かるほどには、見知った顔がちらほらと見えてきた。
「ニッキー部長~!お久しぶりです~!」
ぶんぶんっと手を振り、ちんまい白衣の少女に呼びかけられる。
手を振る度に、一つに結い上げた髪がゆらりと揺れた。
知性があるっぽく見せるための丸い伊達眼鏡がチャームポイントだと昔から宣う。
オカルト部メンバーが一人、藤宮薺であった。
「相変わらず、小さいやつだな」
ぼそりと声を出すと、憤慨するように肩を怒らせて、
「チビって思いましたねぇ!」と、サイコメトリーを発揮してくる。
恐ろしい。さすが、元オカルト部員である。
「久しぶりねぇ。部長も元気そうでなによりだわぁ」
懐かしきオカルト部の面々との邂逅一番、爽やかなイケメンという名のカマ口調という個性豊かな彼は、頬に手を当てて顔を赤らめた。
スラリと背は高く片目を覆うように伸ばす髪とは裏腹に、後ろ髪は短くしている。こだわりのスタイルらしい。白いシャツと黒いベストにやたら爽やかな青のネクタイと黒いズボンは良く似合っている。
今、夏だけど暑苦しくないのか。
「お国も変わってないようで、何よりだよ」
お国とあだ名される彼は、いやーんとくねくねしだした。
相変わらずのくねり前である。
桃国達郎。勿論、彼であるのだが、両方いけるらしい。
そんなカミングアウトは、聞きたくはなかった。
「待ちくたびれましてよ。部長が遅れるなんてなってないですわ!」
「おお、そのですわ!懐かしいですわ!」
「真似なさらないで下さいまし!」
扇子をびしりと突き付けられる。黒髪長髪のですわお嬢様。麦わら帽子に、白いワンピースとはあざとい。お嬢様夏仕様のようだ。滅茶苦茶似合っている。相変わらずの残念美人感はあるけれども。
オカルト部メンバーきってのお金持ち。麗子様こと、有沢麗子。わりとちょろい。
「まあ、まあ麗子様。そんなに怒るな。折角の美人が台無しだぞ」
「そ、そんな言葉で誤魔化されませんわ!」
ぷりぷりと怒って、そっぽを向く。
その反応をオカルト部面々は温かい目で見守った。
「キノコもちゃんと来れたんだな」
「うん、久しぶりにみんなと会えると思って、頑張ったんだ」
オカルト部の良心、キノコこと木興稔。小さい子が好きとかいうちょっとした特殊性癖の持ち主だが、それ以外はとても優しく気のいい奴である。
チビでデブだけど。汗だらだらして、ちょっと息荒い感じが何らかの悪意を持っていると思われかねないかもしれないけれど。
良いやつである。
「それで発案者はどこいった?あと、生生とサムライも来るって言ってたんだけど居ないな」
「坂やん先輩は車取りに行ってますよ。ショウジョ―君はやっぱ逃げるとかメール来たので、彩先輩にチクっておきました」
なるほど、生生はサムライが拉致って来るということが分かった。
では、合流を待つ間に、暫く歓談でもしておこうか。
「さて、久しぶりのオカ研メンバーが集まったわけだが……残念ながら俺ももう若くないので、昔ほどの情熱はなくなってしまった」
「今から槍でも振るんですの?」
「その荷物見る限り、説得力ないですよね」
今までできるだけ触れてこなかった背中のリュックサックのことを言うのはやめて頂こうか。
「ゴホン。今から向かう裏野ドリームランドについて、予習してきた内容を配るので各自、参照すること」
リュックサックから、人数分にまとめた資料を配布する。
「うわぁ、分厚いね……これ」
「変わってないわねぇ」
いや、ちょっと調べるつもりだっただけだし。
そしたら色々出てくるもんだから、毎日徹夜して色々調べたりまとめたりしてたら睡眠不足とかいうようなことになったりしたけど、普通ですよ。フツー。今日、来るのも楽しみでわくわくとかしてたら、寝るのが遅くなって、ちょっと遅めに着くことになったとかそういうわけはじゃないんだからねっ!
「ニッキー部長~、アレやらないんですかぁ!」
「久しぶりに聞きたいわぁ」
「あれを聞くと頭が痛くなるのでやめて欲しいですわ……」
「僕もまだ覚えてるや」
アレ、アレ。行け行けGOGOとかいう、スペイン語ではなくて、一つの物事を差さしているわけである。オカルト部部長により五つの訓示。
「ぜ、全員揃ってからなっ!」
にやにやと、オカルト部員メンバー一同が、見つめてくる。
て、照れてなんかないんだからねっ!
ぷっぷー、という車のクラクションに、全員の注目が音の方へと集まった。
大型のバンが近くへと駐車し、車窓が開く。
今回の発案者である坂城昇が、にやけた笑顔で声を出す。
「やあやあ、みんな揃っているかなー」
「おい、遅いぞ。まあ、未だ来てない奴も居るけどな」
坂城が車から降りて、オカルト部の面々を眺めていく。ひの、ふの、みと数を指で数えて、首をひねった。
「生原くんと村井さんがまだみたいだねえ。持手さんと三越くんは来れないんだったね」
「お前、変なもんでも食ったのか」
にやにやと笑っている顔は、まあ普段通りであるのに、やたら違和感があった。
茶と金色のアッシュ系の髪色で無駄に派手なアロハシャツと短パンにサングラス。
いつも通りに派手な恰好で、DQNと言って差し支えのない風貌だ。
それに違わず、性格はお調子者風なのに、どうにも口調が変だった。
くいくいと、シャツの裾が引かれて、後ろを向く。薺が気持ち悪いといった風に、べぇと舌を出していた。
「……坂やん先輩、今から演出始めてるんですかね。わりとキモイですね」
確かに、演出のためならば、小道具を用いたり、人格さえも矯正して雰囲気を出してくる奴だった。
裏野ドリームランドは、廃園している。
坂城は、「チケットが手に入った」といったが、廃園したテーマパークのチケットが手に入るなんてことはあるわけがない。
故に、今回の同窓会の演出というやつなのだろう。坂城なりの企画を楽しませるための雰囲気作りというやつか。
それにしても丁寧な感じが似合わないやつである。
「じ、自分で歩きますからぁ!引っ張らないで下さいぃぃぃ!!!」
「貴様がもう歩けないと言ったのではないか?変な奴だな」
何やら悲鳴と共に、凛とした声が聞こえてきた。
スーツ姿の女性が、涙目の小柄な少年をスーツケースさながらに、引きずっているという珍妙な光景が目に映った。
「サムライと生生も到着したみたいだな」
「彩先輩~!ショウジョ―君!お久ぶりですー!」
ぶんぶんと、薺が手を振っているのを遠目で確認したのだろう。
サムライこと、村井彩夏が手を挙げて、軽く手を振り答えた。無論、少年を掴んでいる手で。
「ぐええええ、首が締まるぅぅぅ」
じたばたを足をばたつかせて、蒼い顔を作るっているのは、生生こと、生原英生である。やたら白い肌は直射日光を避けなければならないという体質からで、色素欠乏症というやつらしい。そのため、夏場でも肌の露出にならないように上下パーカ付きのスウェット姿だった。
少しばかり、御気の毒とも思えるのだが、こういう企画に関しては重要なポジションを担う役柄である。小さいことは気にしないことにしておこう。
「お久しぶりです、部長。元気そうで何よりです」
「ああ、サムライも変わらず、サムライしてるな」
スーツ姿というのにも憚らず、自然と帯刀ベルトをしており、一振りの模造刀は一際異彩を放っていた。 髪型は髷ではないが、ボーイッシュなショットカットが似合っている。
「げほっげほっ、あぁ、死ぬょもう駄目ぇ」
「生ちゃん大丈夫ぅ。相変わらず兎さんみたいで可愛いわねぇ」
ぼそりと、食べちゃいたいとかいう物騒な単語が聞こえた。
生原が俊敏な動きで、桃国から距離を取る。赤い眼は涙目で、やはり兎のようだと皆に思わせた。
「ぼ、僕はこういう夏場に外に出るのも身体的に辛いんですょ!酷いょ!あんまりだょ!」
生原の怒りの声を上げると、その勢いでフードははらりと取れた。
線の細い白い髪の毛は、所々跳ねていて、薄幸の美少年を思わせる風体であるのだが。
「まあそういうなよ、闇の眷属」
「うぐぅ!」
生原が心臓を抑える。何か苦しそうだが、この程度の言葉で、何を動揺しているのだろうか。
「確か、永遠なる常闇でしたわね」
「むぐぅ!」
「必殺技は、氷極結界滅魔衝ねぇん」
「ぐはぁ!」
生原は、ぷるぷると生まれたての小鹿のように震えて、膝を付いた。
何かを言い返そうとして言葉にならないのか、口をパクパクと開閉している。
「もうその辺で、弄るのはやめてあげようよ……」
オカルト部の良心が、声をかける。まあ、この辺りでやめておくとしよう。
「皆、揃ったみたいだし。そろそろ行こうか」
にやり、と、坂城が口を曲げる。
「……何かやっぱ気持ち悪いですぅ」
薺のぼそっと言った文句はどこ吹く風と、坂城が車へと乗りこんだ。
「よし、じゃあ、皆行くか!」
思い思いの掛け声と共に、車へと乗りこむ。
いざ向かうは、裏野ドリームランドなり。