幼い日の約束
「お兄様!」
アスガル女王国にある王城ノーアトゥーン城の庭で少年が一人、花を見ていると、木に止まっていた鳥達が飛び立つような声をあげながら少年と同じくらいの年の金髪碧眼の可愛らしい少女が少年へ向かって駆け寄ってきた。
「フレイヤどうしたんだい?」
少年が頭を撫でながら聞くとフレイヤと呼ばれた少女が自分を撫でている手に頭を擦り付けながら用件を話す。
「お母様とお父様がお呼びです。急いで王族の間へと。」
「そうか。なら急いだ方がいいな。」
撫でられていた手を離されたことに少し残念そうにしながらも頷いた。
少年はそんな妹を微笑ましく思いながらも母と父が待つ王族の間へと足を進めた。
「お兄様。手を繋いでもいいですか?」
少年は少し恥ずかしかったが断れず手を繋いだまま王族の間へと向かう。
道中、城の使用人たちから暖かい目で見られながらやっと目的の場所へとたどり着くと王族の間の扉をノックする。
この王族の間は特に王族同士の会議が行われていたりするわけではなく、単に子煩悩の母と父が周りの目を気にすることなく子供と触れあうために作られた部屋なので特に緊張もしないで入ることのできる部屋だった。
「入れ。」と返事があり、少年が部屋へ入るといきなり抱きつかれた。
「ごめんねフレイなかなか構って上げられなくて。」
いきなり抱きつかれたことに混乱しながらもフレイは母親を宥める。
「いえ、母上は女王としてこの国を治めなければならないのですから逆に子供にかかりきりでは困ります。」
フレイは母親を説得しながら父親にアイコンタクトを送る。
父も理解したのかフレイに続き話しかける。
「フレイの言うとうりだぞネルトゥス。お前はこの国を治める立場なんだ。まぁ俺の元居た国ではそれは男の仕事だったがここでは違うんだろう?それにフレイもそろそろきつそうだぞ。離してやれ。」
「ニヨルドったらそんなこと言って。いくら仕事があるからって自分の息子たちとなかなか会えないのは辛いんです!」
アスガル女王国という名の通りこの国は女性が治めている。これは、この国はもともと一人の女性が建国したからという理由がある。
ニヨルドが元居た国はヴァイムといい。
ここアスガル女王国の隣国だ。
同盟の証として第二王子であったニヨルドが第一王女ネルトゥスと婚約。
そしてアスガル女王国の第二王女がヴァイムの第一王子と婚約した。
そんな事情が有ってか最初はお互いに権力を持つものが真逆で有ったためうまくいかなかったが今ではこの二国はとても仲がよく理想的とも言える関係を築いている。
「さて、フレイそしてフレイヤ、お前達双子は明日七歳となる。七歳になれば学校へ通わなくてはならない。お前達なら大丈夫だと思うが王族としての誇りを忘れないようにな。」
この国は七歳から学校が始まり年齢ごとに学年が上がり最大十七歳まで通うことになる。
入学と進級には試験を通る必要があり、お金で入学することはできないということになっているが。完全ではないというのが現状だ。
だから学校生活であまり上手くいっていないようだと、王族が権力で無理やり入学したと思われることになる。
次世代を背負うような優秀な子供が集まる学校でそんな目で見られるとこの先自分達が国を治めたときに問題になる可能性がある。よって優秀な成績を出すことは重要なことだ。
「はい。わかっています。お父様。」
「あぁ。フレイお前は賢いからな。フレイヤが学校でやらかしそうになってもフォローを頼んだぞ。」
「あと明日お前達の誕生会がある。これにはたくさんの人が来るからな、あまり騒がないように。」
そんなニヨルドの言葉を聞き、フレイヤは目を輝かせながら頷いた。
それにネルトゥスとニヨルドは笑いながら二人の頭を撫でてきた。
「それじゃあ。明日の大事なときに眠くなったら困るから。今日はもう寝なさいね。」
そんな母親の声を聞き、二人は部屋を後にする。
「お兄様。今日は一緒に寝てもいいですか?」
フレイヤが顔を赤くしながら上目遣いでフレイに迫る。
そんな妹の可愛らしいおねだりを断れる筈もなく頭を撫でることで答えて二人でフレイの部屋へと向かった。
ベットに二人で入っているとフレイヤがフレイ話しかけた。
「お兄様。ずっと一緒ですよ。」
「当たり前だろ。僕はフレイヤのお兄ちゃんだからね。」
フレイヤはこの返答に満足したようで笑顔をこっちに向けながら布団の中でフレイの手を握った。