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番外編 20 山本さんの恋人

言い合っている二人には構わず石橋さんはグビグビ飲んでいる。


「・・あっ、あの! 私、山本さんのお付き合いしてる方の話が聞きたいです」

割り込む形で私が山本さんに話しかけると、山本さんはくるっと私の方を向き頬を赤く染める。


「まあ。聞いてくれるのー? いいわよー。ノロケ話しちゃおうかしら。

この前桐谷社長と一緒にいた人よ。渋くてカッコ良いでしょう?

出会いはね、五年前なの。

上司と部下だったのが私が彼に惚れちゃってね、追いかけ回しちゃったのよ。うふふ」


お酒で頬が少し赤く染まっている山本さんは、女の私から見ても色気たっぷりで羨ましいくらいだ。

桐谷さんが付き合ってた人もきっと、こういう美人さんだったのかな・・。


「相撲で言う、寄り切りみたいな感じだったな」

「いや、あれは押し倒しだろう」

「ちょっとお、やめてよ、失礼ねえ」


山本さんの恋人の藤田さんは山本さんより随分年上で、すごく嫉妬深い性格なんだそうだ。

「山本と俺との噂なんて、知ってて隠れ蓑にするため放置してあるくせに、俺と会うと物凄い形相で睨んでくるんだ。

山本と一緒にいることが多いから俺が気に食わないんだろう。とんだ迷惑だ」

桐谷さんはやれやれと首を振る。


「その噂のせいで、危うく鈴音に逃げられるところだったんだからな。まったく」

「あら。でも、そうでもなかったらダラダラ同棲生活してたでしょう。よかったじゃない。きっかけになって」

「うるさい。それがなくても攻めて行こうと考えてたところだったよ!」

「そ、そうだったんですか!?」

驚いた。驚いてちょっと大きな声が出てしまった。

居酒屋という場所は周りも皆大きな声でしゃべって笑っているので大して目立つことはないけど。


「当たり前だ。下心がなかったら、部屋に置くわけないだろう」

信じられない。じゃあ、・・結構前から好意を持ってくれていたってこと?

私は最初は本当に、部下思いの上司だなあって思ってたんだけど、・・違ったんだ。


「俺はお前が汐崎を連れ込んだと聞いて犯罪かと心配したぞ」

「浩太・・、明日覚えてろよ。仕事増やしてやるからな!」

「俺はお前のように倒れるまでやらん。自己管理は完璧だ」

「・・・」

桐谷さんは黙ってしまった。

石橋さんは恨めしそうな顔をしてる桐谷さんの肩を叩いて笑ってる。

二人は仲が良い。桐谷さんが私に友達は大事だって言うのも、きっと石橋さんがいるおかげだろう。








帰り道。

山本さんのお迎えに来た藤田さんは、前に会社でお会いした時とはずいぶん印象が違うので同じ人だとは思えなかった。

車を降りるなり「紗耶香さんっ」と手をこちらにむかって振って叫んできた。


「社長の横にいた時は無表情で怖そうな人だったでしょ。

二重人格、とかではないのよ。ふふ。ただオンオフがハッキリしてるだけ」

「もういいでしょう? 早く帰りますよ。

ああ、こんなにお酒の甘い匂いをさせて歩いているなんて・・悪い虫が寄って来たらどうするんですか」

「ふふ。じゃあ圭さん、帰りましょ」

藤田さんは、山本さんの腰を抱いて、キスするんじゃないかって思うくらい顔を近づけて話すから見ていてドキドキした。


「お前がいたら誰も寄りつかねえよ」

「山本なら相手をブッ倒せるから心配無用だろう」

「・・何か言ったか?」「あら、なあに?」

藤田さんの目がひゅっと細まり、山本さんがにーっこり笑う。・・笑顔なのにコワイ。


「道路に投げ飛ばされたいならもう一度言ってご覧なさいな。

ふふふ。鈴音ちゃん、あまり焦らすと男は暴走しちゃって厄介だから。

今夜は、桐谷さんにいっぱい可愛がってもらうのよー」

「は、はいっ!」

車に乗り込む山本さんに勢いよく返事をするものの、車が出てしまってから恥ずかしさが込み上げた。

なに返事してるの、私・・。


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