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番外編 19 居酒屋さんで


今日は無事に大きなミスもなく就業時間を終えた。

急ぎの仕事もないので今日は四人で飲みに行こう、と桐谷さんが提案して、そのまま会社の近くの焼き鳥居酒屋さんに行くことになった。



今日の私の服装は、薄いグレーのフレアスカートのスーツに、パステルピンクのブラウスを合わせている。この淡いピンクはお気に入りの色だ。

前の時はグレーのリクルートスーツだったから、ぽっかり浮いてしまっていた。

今の私は、ちょっとはこの素敵な三人のそばにいてもおかしくないように見えるだろうか。



入ったお店は、ランチに鶏の唐揚げや親子丼などが美味しいところで何度か来たことがある。

昼間の明るい感じとは変わって、夜は照明も橙色で落ち着いた雰囲気になっている。

奥のボックス席に四人で座る。

桐谷さんは通路側に置いてあった荷物用のカゴを寄せて、私のバッグを入れてくれる。相変わらず親切だなあと感心してると、目が合ってくすりと笑われた。


「なんですか?」

「いや、最初に飲みに行った時には、でっかい黒鞄を抱えるように持ってたなあって思い出してさ。

メニューこっちにもあるぞ。ほら」

「そうだな。中にぎっしり札束が入ってんのかって思えるくらい大事そうに持ってたもんな。

限定メニューも頼もう。酒はビールでいいか?」

「懐かしいわね。・・ねえ、これも注文して。あ、これも」

「ん。これもお前好きそうだな。お、ライスも頼んでおくか」

桐谷さんと石橋さんと山本さんは、楽しそうに話しながら器用に店員さんにメニューを指差し注文をしている。

私はなかなか決められないし、注文はいつも皆さんにお任せしてる。

桐谷さんは私の好きなものをしっかり把握してくれているので、いつも美味しいものを食べられる。



パソコンの入った黒い大きな鞄は、最近は仕事が終わったら会社に置いておくようになった。

家では残業はしないで、本を読んだりテレビを観たり、桐谷さんのお古のパソコンで勉強したりして過ごしているからだ。

桐谷さんは自分は家でも仕事をするくせに、私には仕事ばかりじゃなく色々なことをした方がいいと言う。まあ、そう言われてもやりたいことが見つからなくて結局、勉強とか仕事に繋がることをしてるんだけど。





さすがは居酒屋なので、お酒はすぐに運ばれ、お料理のお皿も次々と並んでいく。

チン、とグラスを軽く鳴らして乾杯した。


石橋さんはピシッと固められた自分の髪を手でわしわしと掻き混ぜ、休日に見た時のラフな髪型になった。


「あの黒鞄を手離して飲みに来れるようになっただけでも汐崎には進歩だろ。

あのままじゃ、体を壊してただろうからな。

お前もだぞ、桐谷。以前よりはマシになったがまだまだ働き過ぎだ。二人で共倒れにならないようにしろよ」


「あ、シャルにも言われました。これだからワーカホリックの日本人はって」

「いや待て、汐崎。桐谷みたいな奴はごく稀な例外だ。

一般的な日本人が皆こんな働き蟻のようだと思われたら大変だぞ」


「ねえ、シャルルって子、すごいイケメンなフランス人の鈴音ちゃんの高校の時の同級生の子なんでしょ?」

山本さんが目をキラキラさせている。どうして知ってるんだろう。噂で聞いたのかな?

「あ、は、はい・・」

「おい、もうアイツの話は止めろよ」

「きゃ」

ぐいっと肩を抱き寄せられてグラスの中をこぼしそうになってしまった。


桐谷さんの顔を見上げると、ちょっと不満そうな不機嫌そうな感じ。

え? シャルルのことを話すのはマズかったの?

なんて呼びかけるか悩んでいると、石橋さんがブハっと吹き出して大笑いした。


「ははっ。あの桐谷がねえ。初心な女のコひとりに振り回されるなんてな」

「ホントホント。あの桐谷さんがねー。鈴音ちゃんのお友達にまでヤキモチやくなんて」

「初めてじゃないか? 今まで適当な付き合いしかして来なかったもんな」

「あー、うるさいうるさい」


ムッとした表情で石橋さんに言い返す桐谷さんは少し幼く見える。こんなこと言ったら失礼だろうけど。

それにしても、あの桐谷が、とかどういう意味なんだろう。

やっぱり、その、過去にお付き合いした人がたくさんいたということだろうか。


石橋さんはビールを飲みながら、眉をひそめて私に言った。


「・・汐崎は聞かない方がいい。こいつの過去はロクでもないからな」

「そうねえ。あっ、でも違うのよ、鈴音ちゃん。

桐谷さんはこのところ・・えっと、社長代理になったころから全然遊ばなくなったのよ。

だから、今鈴音ちゃんがお付き合いするのには何の問題もないから大丈夫よ」

「余計なお世話だ。俺の話なんかいいんだよ」

「あら、なによ、そんな言い方して。だいたい桐谷さんが自分でそういうの説明しなさそうだから言ってるんじゃないの。変な噂ばっかり聞かされたら不安になるのよ、女の子は。

桐谷さんってどうしてそういう・・」


二人が言い合いみたいになってしまった。これは、私は触れない方がいいところなのかな。

気にはなるけど、掘り下げるのはやめておこう。



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