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番外編 12 好きです!

真っ直ぐ見つめられて、心臓が飛び出しそうなほどバクバクする。


口から勝手に言葉が出るのに頭は真っ白で何も考えられない。

「い、いえ、あのっ、あの! わかってます。いえ、あの、キスとハグは挨拶なのでシャルとはするけど、桐谷さんとだと驚いただけで・・・」

「そうじゃない」

ずいっと顔が寄せられる。

目の前。近い。

鼻と鼻がくっつきそうな距離。


「好きだって、言っただろ。

俺がしたいキスは挨拶のキスじゃない」


え?


「ちょ、ちょっと待ってください、桐谷さん。あの、えっと。

き、き、桐谷さんは山本さんが・・」

「はあ? 山本には付き合ってる相手がいるぞ。

・・・お前、なんか勘違いしてるのか?

まさか俺と山本がーとか思ってたんじゃないだろうな?」

「お、思ってました。違うんですか?」

「違う」


きっぱり否定されて、肩からふうっと力が抜けた。


桐谷さんと山本さんは、恋人同士じゃなかった。

・・・だったら、私は、桐谷さんを好きでいいんだ。



「ワルい子だな、汐崎。俺が好きだって言ったのに信じなくて、噂話の方を信じたのか?」

「え・・っ」

桐谷さんの声が少し低くなる。視線を落としていたら、くいっと顎をあげられた。


ち、近い!

顔が近過ぎ!

桐谷さん、怒ってる顔もカッコいい・・じゃなくて。


「だ、だって。桐谷さんと山本さん、お似合いだと、思ったから・・。

お二人ともすごい大人で、綺麗で。

私なんて、子どもだから、とても桐谷さんとは・・」


「周りが何言ったってどうだっていいんだよ。そんなのは。

前にも言っただろ? 何やったってなんだかんだ文句つけてくる奴は絶対いる。

そんな奴らに気を遣って自分の気持ちを偽るなんて馬鹿げてるぞ」


顎に添えられてた手は、私の頬をすうっと指でなぞりそのまま頬に当てられた。大きな手。



「俺が惚れてるのは、お前だ。汐崎・・・鈴音」



目を見て、一言一言ハッキリと告げられた。

勘違いなんてできない。間違い・・にさせてくれそうにもない。


「お前は? 」


「・・・・わ、私、わたしは・・」

「さっさと白状しろよ、鈴音。

お前のわかりやすい表情に煽られて、俺はもう我慢の限界なんだよ。

でも、ちゃんとお前の口から聞きたい」


言えと促され、私の脳みそは指令を受けたと勘違いしたようにそれに従った。


「・・・・です」

「聞こえない。ちゃんと、大きな声で」


桐谷さんはちょっとイジワルそうな顔でニヤっと笑い、両手で私の頬を包んだ。


「す、きです! 桐谷さんのこと」

私は叫んだ。

これで聞こえないとは言わせない!と言わんばかりに目の前の桐谷さんに向かって大声で。

桐谷さんはそれに驚き目を丸くして、すぐに目を細めて柔らかく笑った。


「よくできました。・・・もう、我慢できないからな」



両腕でむぎゅうっと抱きしめられる。


「ああ。やっと、だ。やっと、抱きしめられた」

耳元でそんな風に囁かれる。

桐谷さんの両腕が私の身体を確かめるみたいに背中を撫で回すのでくすぐったい。


「ふふっ、や、ちょ、やめてください」

「逃げるなよ、おい」

身体をよじって離れようとすると、ますます桐谷さんの腕に抱きかかえられるみたな体勢になった。


「・・・もう、俺の腕の中から逃げるな」


桐谷さんの顔が近づいて、私の唇に触れる。

あ、キス、・・だ。

はじめて。生まれて初めての、キス。それも、好きな人と・・


そう思っている間にも、何度もキスされる。


ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ・・・くすぐったい優しいキスに笑いそうになると、突然、にゅるっと口の中にあったかいものが侵入してきた。


「ん!? やっ、あ・・」

それは、まるで生き物のように私の口の中をぐにぐにと動き回り、呼吸もままならない。

「はなっ・・んっ」

離して、と桐谷さんの腕を押しても叩いてもビクともしないどころか、手が、私の背中を撫でてくる。ぞわぞわと背中が震える。


なにこれ、なにこれ!?

「やっ! っん、もお・・、離してっ」


酸欠でくらくらする。混乱する頭では上手く対処法を考えられない。

ぐらりと景色が回り、ぼふんと倒される。え? 何時の間にソファのとこに?


覆いかぶさってくる桐谷さんはなおもキスを続行してくる。



「ちょ、まっ・・んっ」

待っても言わせてもらえない早急な動きに、私はパニック状態になる。

服の中に桐谷さんの手が入って来て、私は、ブチ切れた。



「も、もうっ! ちょっと待ってって言ってるでしょお!」


バシっ!!

という音でハッとした。


・・・やってしまった。

殴ってしまった。恋人になったばかりの桐谷さんの顔を。


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