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番外編 8 シャルルとの思い出

シャルルと過ごした高校生の時を思い出す。


彼はやってきたその日から皆に囲まれて、アイドルみたいに騒がれて大人気だった。

私はそういう賑やかなところは苦手で、彼には近づこうともしなかった。



でも、ある日。いつものように誰もいない第二図書館へ勉強しに行ったら、真剣に本を読んでるシャルルと出会った。


『ハイ、こんにちは』とフランス語で話しかけてきた彼に、私は必死で答えた。

手の中の本を見ながら。

『こ、こん・・にちは。わたしは、ガクセイです。

わたしは、スズ、ネ。ヨロシクおねがいします』


その時、英語だけでなく他の国の言語も学びたいと思っていた私にとって、彼はとても良い先生だった。

その時私はフランス語と中国語とドイツ語の入門編の本を借りていて、どれを勉強してみようか迷っていたところだった。


彼が私のどこに興味を示したのかはよくわからないけど、朝の早い時間や放課後に私が図書館にいると、いつもふらりとやって来て、フランス語でおしゃべりをした。


その時私は、いい会社に就職するために朝から晩まで机に噛り付いて勉強し通しだったので、彼とおしゃべりしながらフランス語を勉強できるその時間はとてもとても楽しく思えた。

家で本で勉強して、シャルに教えてもらって、どんどん使える言葉が増えて行くのも嬉しくて夢中で勉強した。


でも彼との思い出は、楽しいものばかりじゃない。




『・・シャル、怪我は、もう治ってるのよね? 後遺症とかない?』

私は手を伸ばしてシャルルの腕にそっと触れる。

シャルルは逆に私の手を包み込むように握りしめ、ちゅっと指先にキスを落とす。


『何年前の話してるの、スズ? あんなケガ、一ヶ月くらいで治っちゃったよ。手紙にも書いたでしょ?』

『うん・・』



高校二年の夏、階段で足を滑らせた私を庇って、かわりにシャルルが落ちて腕を折る怪我をしてしまった。

その知らせを受けた両親が大慌てで帰国の手続きをとったらしく、ある日病院にお見舞いに行ったらシャルルはいなくなっていた。

留学期間はもう数日あって、お別れもちゃんと言えてなかったから余計に心苦しかった。

シャルルのことをすごく大好きだった女子達に囲まれて、彼を怪我させたことを散々責められた。

兄のことを消化できてなかったあの頃の私はものすごく落ち込んだ。

「仲良くすると怪我をする」「疫病神だ」と噂され、仲良くしてくれてた友達も離れて行き、私は完全に孤立してしまった。


それ以来、誰とも関わりを持たないようにして、一人勉強に没頭したんだ。





『治った姿を見せずに帰っちゃったから、心配かけたんだよネ。ごめん。

他の女子からいろいろ酷い事を言われたそうだネ。

スズの手紙にはそんなコト書いてなかったから、この前北島センセイに聞いてショックだったよ。

ごめんね、スズ』

『ううん、そんな・・。私が悪かったんだし。

皆から何を言われてもそれは当然だもの』

『あの時、母に言われて帰国を早めたけど、スズのそばに居たらよかった。

そしたら、ボクが守ってあげれたのにな。くやしいよ』


私の手を両手で包み込んだまま、シャルルは悲しそうに顔を寄せた。

そしてまた、私の手にちゅっちゅとキスを落とす。


何度もするので、いくら慣れてる行為でもさすがに恥ずかしくなってくる。

『ち、ちょっと、シャル・・』

『ねえ、スズ。傷痕が気になるなら、見てみる?』

『え?』

『二人きりのスイートルームで、ハダカになったら見れるよ、スズ』

『なっ・・・!』


私が絶句すると、シャルルは大笑いした。

『あははは。相変わらずスズは初心で可愛いネ。ねえ、彼氏はいるの?

立候補したいな。ボクがスズのバージン貰ってイイ?』

『もう!』


甘い笑顔でシャルルはとんでもないヤラしいことを言う。

そうだ。シャルルってこういう子だった。

高校の時からこうやってからかわれていたんだ。


キラキラした王子様なのにエロエロすけべな男。

シャルルにとって、女性を褒めること、口説くことが男の義務。らしい。

フェミニストな彼は、女性の意に反する事は決してしないし、乱暴なことが嫌いな性格だから、一緒にいても身の危険を感じたことはないけど。


『スズ、今どこに住んでるの? 一人暮らしなんでしょ?』

『う、うん。今は、桐谷さんのところに居候させてもらってるの』

『ええ!? シャチョーさんと?』

驚いた顔で私を見るシャルル。私は慌てて手を顔の前でブンブン振った。


『あっ、違うのよ。その、前にいたアパートが問題があって。

臨時に。短期でいさせてもらってて。・・でも、もう出て行かなきゃ』


山本さんと桐谷さんがお付き合いをしているなら、私はあそこにいるべきではないだろう。

桐谷さんは責任者として私を保護しているだけで・・。特別な思いじゃない。

私は、桐谷さんにとっての、特別じゃあ、ないんだから。


『そうなの? 引越し先なら紹介してあげれるよ。ボクも入ってる所だけどネ。

うちの会社で買い取ってるのに今は誰もいなくて空っぽなんだ。

家具付きだから何も要らなくて、便利だよ』


それは、とてもありがたい申し出だ。

『・・ここから近い? 今度見に行ってもいい?』

『もちろんだよ。スズが来てくれたらうれしいな』


とりあえず、ほっとした。

これ以上、普通の顔して桐谷さんのそばにいられる自信なかったし、そばにいれば・・・好きになってしまいそうで怖かったから。


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