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番外編 4 噂は真実?

あんな話を聞いた後で、どんな顔をして桐谷さんと山本さんお二人に会ったらいいんだろうと思いながら社長室に戻ったら、そこにいたのは石橋さんだけだった。

飲み物を飲んでいた石橋さんが、カップを置いて私の方を見る。


「桐谷と山本は急な会議に出てる。

・・・汐崎。俺の顔を見てそんな安堵するなんて、一体どういう訳だか興味深いが聞いても良いのか?」


鋭いっ! 焦って手を必要以上に顔の前でパタパタ振ってしまった。

「い、いえ。え、っと、あの・・」

「桐谷に叱られそうなミスでもしたのか?」

「いえ・・」

ククっと笑う石橋さん。

会社では珍しく、メグミさんと一緒の時みたいな優しいお兄さんの顔だ。

桐谷さんの出張に石橋さんは同行しなかったので、メグミさんに誘ってもらって何度か一緒にお買い物に行った。弟さんの喫茶店にも。

そのおかげか、だいぶ自然に石橋さんと話せるようになった、と思う。


・・石橋さんは桐谷さんと山本さんとも親しいので、お二人が付き合っているのか知っているのかな。前、山本さんとそういう話をしていたような気がする。


そう思ったら考えることなく口から言葉が出ていた。

「あ、あの、山本さんって、お付き合いしてる方が・・」

「あ?」

「あ! いえ、なんでもないです。すみません」

ハッと我に返った。私、何を聞こうとしてるんだろう。

こんな、プライベートなことを。


怒るかと思ったら、石橋さんはハッと小さく笑った。

「ああ。女性社員が噂してたか? 社員食堂はすごいもんな。

・・・それともイチャついてるところを目撃したか?

会社では止めろとアイツらには注意してあるんだがな」

「い、いえ! あの、・・・とても素敵な、おふたりだと、思います」



決定、だ。

ただの噂なんかじゃない。事実なんだ。

石橋さんが言うんだから間違いない。


「お前も若いんだから楽しく恋愛しろよ。俺が言うのもなんだが。

恵なんてしょっちゅう違う彼氏を連れて来るぞ。まあ、すぐに相手が変わるから、あれはあれで問題だと思うんだけどな」

「・・・私は、とても。今は仕事でいっぱいですし。そんな、余裕は・・」

無理やり愛想笑いを浮かべて頭を下げた。

自分のデスクに着いて、パソコンを開き、今日やる仕事を始める。



仕事、仕事をしなくちゃ。

他ごとを考えてる場合じゃない。

集中、集中。





午後三時を過ぎた頃、桐谷さんと山本さんが戻って来た。

「社員食堂は楽しかったか? 汐崎」

「私、最近行ってないわ。毎日メニューがちょっと変わるのよね」

二人ともにこやかに私に声をかけてくれる。

私も笑って「はい」とだけ言葉を返した。

でも先に何も続かなくて、すぐにパソコンの作業に戻った。



「山本、ここの部分を訂正して、こっちの・・」

書類を挟んで話をしている。

二人並ぶと、本当に素敵だって思う。綺麗な人達だなあって。


どうして、こんな人達と、同じところにいる、だなんて勘違いしたんだろう。



チクリと胸が痛むような感覚は、きっと気のせいだ。うん。

大丈夫。

だって、まだ、好き、とかじゃない。レンアイじゃない。

桐谷さんは、私なんか手の届かない、雲の上の人。見てるだけで十分。


自分に言い聞かせるように繰り返した。





「汐崎、明日から、フランスの企業との取引を進める。これが資料だ。目を通しておいてくれ。質問があれば何でも聞いてくれ」

「はい」

受け取った分厚い紙の束をぐっと握りしめる。

頑張ろう。

私にできることを精一杯やって、少しでも桐谷さんのお役に立ちたい。






*****


そして次の日、通訳として私は桐谷さんの横に立っている。


今日は大人っぽいベージュのスーツに、ちょっと綺麗な色のスカーフを合わせてみた。

朝、私が選んだ服を見て桐谷さんは「いいんじゃないか。よく似合ってる」と褒めてくれた。

桐谷さんの手を煩わせないように、雑誌を見たり他の人の服装を見て、洋服の組み合わせを研究したんだ。




会議室に背の高い男の人がぞくぞくと入って来る。

いつもこの時はすごく緊張する。

桐谷さんの横に立って、習った礼儀作法を頭に浮かばせながら丁寧にお辞儀していく。


顔を上げたら最後に来た若い金髪の男の人と目が合って驚いた。


え!? シャル?


上げそうになる声を飲み込んだ。


向こうはすでに私がここにいることを知っていたのか、驚いた様子もなくにっこりと微笑まれる。

そしてそのまま進んで行き、一番端の席に着いた。


桐谷さんの挨拶で会議が始まる。

私も気持ちを引き締めて、桐谷さんの言葉をフランス語に言い換え、伝えた。


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