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番外編 2 並んで座って

年末年始は実家に帰って過ごした。

私は寒いのは苦手だ。

手も足も指先は氷みたいに冷えて動かなくなってしまうし、とにかく昔から私は寒さに弱い。冬生まれなのにな・・。


年が明けるとすぐに私は十九歳になった。

子どもの頃からバタバタした忙しい時に生まれたので、年明けのおめでとう、と誕生日おめでとうはまとめて言われて育ってきた。


居間のコタツに入って動かない私を見て兄は笑う。

「すずは猫みたいだよな」って。

そういう兄は犬みたいで、寒いのはへっちゃらみたいだ。

小学生の頃、雪合戦をやろうとよく誘われたけど、私はすぐに凍えて家に戻った。

・・そんな時、おばあちゃんがあったかい生姜湯をいれてくれたっけ。



うちの父方の祖母は、私が家を出るのと同時に施設に入っている。

認知症が少し進行していたし腰も悪く、兄の看病もあって母には手に負えなかったからだ。

施設は高校から結構近かったのでたまに顔を出しに行っていた。


最近行ってないから、近いうちに行きたいな・・。

おばあちゃんはお花が大好きだから、お花を買って行こう。


祖母は私と兄を可愛がってくれたから、本当はお兄ちゃんも連れて行ってあげたいけど、母はいい顔をしないだろう。

母と祖母は昔からちょっぴり仲が悪い。

父が祖母の味方をするので夫婦間にも亀裂が生じている。


父は静かな人で、昔から母が怒ったり不満を言うと、そっと家を出て行く人だった。

無口で無関心。

父が何を考えているのかはきっと誰も知らないんじゃないだろうか。





*****


一月の終わり頃ようやく桐谷さんが戻って来ると、私も元の業務に戻るように言われた。


桐谷さんのお父さん、桐谷社長は持病があるので自宅で療養しながら、秘書の方を通じてお仕事をされるようだ。

あまりお話する機会はなかったけど、落ち着いた素敵な方で、私のようなイチ社員にも丁寧な態度で接してくれた。

「愚息に会社を任せるのはまだ心許ないが、どうか支えてやってくれ」なんて、勿体無いお言葉を頂いた。

緊張しすぎて何も答えられず頭を下げる私の横で、山本さんは綺麗に微笑んで受け答えしていた。流石だなあ。



戻ったら戻ったで桐谷さんは引き継ぎに追われてて、私もそのお手伝いでずっとパソコンに向かっている。

顔を上げてちらりと桐谷さんの真剣な横顔を盗み見てみる。

この三ヶ月半、ずっと声しか聞いてなかった。

実物は・・やっぱり素敵だ。

そんなことを思っていたらパチっと目が合ってしまい、慌てて作業を再開した。

見ていたの、バレただろうか。




*****


数日間は、夜も遅くまで仕事が終わらなくて、二人してフラフラ状態で自宅に帰って寝る日々だった。


ようやくひと段落すると、自宅でゆっくり一緒に夕飯を食べることができた。

母に教えてもらった料理を作ると、桐谷さんは美味しいと喜んで食べてくれた。



食後、ソファで横に並んで、座った。

ネコのカップにあったかい緑茶をいれて。


桐谷さんは海外での色々な話を聞かせてくれる。

仕事のことだけじゃなくて、そこで食べた美味しかったものや綺麗だった景色、見つけた面白いものを。

携帯で撮った写真を見せながら話してくれたので、まるで私もそこに行ったような気分になる。


「ここは有名な観光名所だったから人で溢れてたけど、やはり素晴らしかった。一見の価値はある」

まるでポストカードみたいな綺麗な写真。

「素敵ですね。私はまだ、海外には一度も行ったことがないのですか・・」


ふと、友人が故郷の話をしてくれたのを思い出した。

あの時は、図書館で世界遺産の図鑑や美術館の画集を見ながら話を聞いたっけ。


「フランスには一度行ってみたいですね。教会やお城を見てみたいです。

美術館で、彫刻や絵画も。写真で見た街の景色も」

「ああ、いいね。フランスはとても美しい街だ』

携帯の写真を見ながら話しているので、すぐ横に桐谷さんの顔があることに気づいた。

近い。少しでも顔を動かしたらぶつかってしまうんじゃないかって思えるほどの距離。

毎晩電話で聞いていた声よりも、低く良く響いて聞こえる。


『大学の頃行った時にはヒドい目にあったけどな。友人が財布を落として・・」

桐谷さんが旅行でのちょっとしたトラブルを面白おかしく話してくれるので、笑ってしまった。



桐谷さんがいない間・・・。

広い部屋で、一人でいるのは思いのほかさみしいものだった。

これまで独りでいたはずなのに、どうしてなのか不思議に思ったんだけど、こうやって一緒にいるとよく分かる。


桐谷さんといると、すごく楽しい。

綺麗な笑顔で私にお話してくれるからドキドキしてしまう。

顔が、熱い。気がする。

目が合うのは恥ずかしいけど、目が合うと桐谷さんはいつも笑ってくれるから、ついじっと見つめてしまう。




「・・取引相手とは英語だったから、自分で意思疎通が図れてやり易かったよ。

次はフランスの企業ともいくつか取引を予定してるから、その時にはまた活躍してくれよ、汐崎」

「は、はいっ!」

名前を呼ばれてハッとした。

浮かれてる場合じゃない。気を引き締めて頑張らないと!


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