34 ショッピング!
十五分ほどで着いたのは、大型ショッピングモール。
ぐるぐる回りながら上っていく立体駐車場というところで、車の中でバランスを崩して思いっきり桐谷さんにぶつかってしまった。
「まずは二階からね。山本さんはいつもどこのブランドなの?」
「そうねえ、私は・・」
右も左もキラキラした女の人の服のお店が並んでいた。
すごい。すごすぎる。
「おい、汐崎。きょろきょろしてるとはぐれるぞ」
声をかけられてハッとする。
恥ずかしい。都会に出てきた田舎のネズミみたいな気分だ。
メグミさんは山本さんと靴のお店で立ち止まる。
たくさん並んでいる靴を手に取り、足に履いてみて、また脱いで、おしゃべりしながら楽しそう。
何度かそれを繰り返した後、メグミさんはたたたっと走ってこちらに来ると、石橋さんの腕を掴み、引っ張ってお店の奥に入って行った。
それを見ていた桐谷さんがおかしそうに笑ってる。
「あの三兄弟はすごいんだ。皆性格バラバラでお互いに好き勝手やってるようなのに、仲良しでさ。しょっちゅう一緒に出掛けたりしてる。
浩太はあんなんでも二人からめちゃくちゃ懐かれてるし。
見ててすごく面白いんだ」
「・・・素敵ですね」
仲の良いきょうだい。
メグミちゃんのキラキラしてる笑顔は、・・・私には眩しい。
「汐崎は・・」
「すっずねちゃーん!」
桐谷さんが何か言いかけた時、メグミさんが駆け寄ってきて私の腕を掴んだ。
「ねえねえ、スーツもかっこいいけどさ。可愛い服も着てみようよ!」
「え? い、いえ・・」
するりと、私の腕から黒い鞄が持っていかれる。え?とそちらを見ると桐谷さんがにっこり笑っていた。
「持っててやるから行って来い。メグミ、試着させたら俺も呼んでくれよ」
「オッケー、オッケー! 超楽しみにしてて!」
「え・・? ちょ・・」
助けを求めようとしたのに、桐谷さんは笑って「いってらっしゃい」と手を振っている。
そんな・・・!
困るよ。こんなの。
こんなとこ、来たことないのに・・。
引っ張られて入った場所は、今まで入ったこともないような綺麗で高級そうなお店。
マネキンが着ている服も可愛くて・・高そう。
とてもじゃないけど、こんなところでお買い物なんかできない!
「やっまもっとさーん! 鈴音ちゃん、連れて来たよー!」
「あら。びっくりしてる?」
山本さんは私の顔を見てすぐに駆け寄ってきてくれた。
背の高い山本さんは私と視線を合わせるように少し膝を折って、にっこり微笑む。
「大丈夫よ。ちょっと可愛いお洋服を着てみるだけ。着せ替えごっこよ。着たって買うことないの。着るだけよ。だから心配いらないのよ」
「あ、・・そ、そうなんですか。私、こんな素敵なお店は初めてで・・」
「ふふ。私達に任せて」
「こちらへどうぞー」とメグミさんに案内されて、奥の試着室に靴を脱いで入る。
「じゃあ、まずは、これとこれね」
どっさりと服を渡されて焦ってしまう。え? 試着って、これ全部?
「上から下まで、トータルコーディネートだから。あ、靴も可愛いの持ってこようっと」
「着方が分からないものがあったら、声をかけてね」
シャっと、分厚いカーテンが閉まる。
手にした服を恐る恐る広げた。白いブラウス。薄いふわふわっとした素材が胸元でひらひらしてる。とても、キレイ。
見惚れてしまう。こんな、綺麗な服を、着てみてもいいの・・?
「どうかしら? サイズとか」
「あ、す、すみません。まだ・・!」
山本さんの声が聞こえて、慌てて自分の服を脱いだ。
着替えるのは早い方だと思う。毎朝、パパっと身支度できる。
でも、慣れないさらさらな手触りの服は緊張してしまって、ボタンをかうのに手間取った。
スカートも履いてみる。ひらり、ひらりと揺れる。
目の前には大きな鏡があるけど、なんだか自分を見る勇気が出ない。こんな、不相応な格好して・・。
「どう? 鈴音ちゃん! 開けてもいーい?」
「え、あ、えっと・・」
「着替えは終わった?」
「あ、・・・はい」
「じゃあ、開けるよー!」
勢いよくカーテンが開いた。恥ずかしくて顔が上げられない。
俯いた視界の中にピンクの靴と、黒いスーツの黒い靴が見える。
・・・き、桐谷さん!?




