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30 これからの課題

私の生活が激変した。


朝、起きて目に入るものは、真っ白な壁と窓にかかるクリーム色のカーテン。

この色は、朝の太陽の光を受けるとますます柔らかい色になる。


着替えてリビングに出ると、桐谷さんはもうテーブルでコーヒーを飲みながらタブレットを見ている。ニュースらしい。


「おはよう、汐崎」

いつもキビキビしてる桐谷さんも、朝は少し眠そうな声をしている。


「おは・・よう、ございます」


挨拶は、誰か・・言葉を交わす相手がいないと出来ないこと。

今までは、朝起きてから会社に着くまで一言も何も発することはなかった。

独り言は好きじゃないし。



私もコーヒーをもらってテレビのニュースを観る。

朝の占いで、「今日は新しいことを始めるといいでしょう」と言われた。

すごい。どうして知ってるんだろう。






通勤はホントに数分だ。

エレベーターに乗る必要もない。階段でトントンですぐに着く。


仕事はマイケルの商談が終わった後から、新人研修に出たり、他の部署の仕事を教えてもらいに行ったり、色々な経験をさせてもらっていた。


桐谷さんは私の通訳のセンスがいいので、このまま秘書として山本さんの下について仕事を覚えてもらいたい、と言ってくれた。

もちろん、喜んでそうさせてもらいます、と答えた。




私は九時ごろまで残業して、誰もいないのを確認してから上の部屋に帰る。


いつも桐谷さんと同じ行動をとるわけではないので、なんと合鍵を渡された。

責任重大、失くしたら大問題な、大事な鍵だ。取り出す時にはいつも緊張する。


パソコンの鞄は軽くなった。

上の部屋でもバッテリーでなく直接プラグを繋いでやっていいと言われたのだ。

電気もきちんと付けてやるよう言われた。


家でまで仕事をやるな、やり過ぎだ、と言われて余分に仕事をもらえなくなってしまったので、家で時間を持て余している。

やることがないから勉強でもするかな。フランス語の他にもドイツ語とか、ロシア語もやってみたい。



桐谷さんの方が遅い帰宅の時には、わざわざ「ただいま」と顔を出してくれる。

お風呂上がりにも。「お前も入れよ」って言いに来てくれる。

遅くまでパソコンをしてると「もう寝ろ」って言われることもある。

眠る前にはいつも「おやすみ」と声をかけてくれる。




人と話すのは、まだまだ苦手だ。

桐谷さんとはだいぶ話せるようになったと思う。桐谷さんは話を聞いてくれるのがうまいと思う。

けど、山本さんや石橋さんは、目の前にするとビッキーンと固まってしまう。

何も考えられなくなってしまう。

仕事が、全部、一人で出来るものばかりだったらいいのに。





*****


ある日、桐谷さんは私に生活を見直すようにと言った。

社会人は自己管理もできなければいけないと。会社に求められているのは、ニ、三年で潰れてしまうようながむしゃらな人間ではなく、己を知りスケジュールを立てて実行できる人間だと。

休息を取るように。

食事をするように。

睡眠をとるように。

その三つはなんとか、以前よりは改善されてきた。と思う。

けど、まだ私には難題があった。



「人間関係も大事だと、最初に言ったのを覚えているか?」

「はい」

「周りの人間と親しくなることは、仕事を円滑に進めて行く中で非常に大事なことだ。お互いに信頼関係がなければ仕事はし辛い」

「・・・すみません」

口から出たのは謝罪の言葉。


四人で仕事をしていて、私以外の三人はお互いに得意分野があり、色々と分担して手早く仕事をしている。なにか聞きたいことがあれば気軽に呼び止め、話し合い、話を進める。

でも、私はそういうやり取りが上手くできない。

聞きたいことがあっても上手く伝えられないし、聞かれても上手く説明できない。

そのため、一人でやれるような内容のものをやったり、資料作りやデータの入力などに仕事が偏ってしまう。



視線を上げれないでいると、ぽんと頭に手がおかれた。

「・・人と話すのは苦手でも、会社ではコミュニケーション能力は必須だ。わかるな?」

「はい。努力します」

「本当だな? 今度のプロジェクトにはきっちり参加してもらうからな」

「はい」


私は何をしにここに来てるの? そう、仕事をするため。お金を稼ぐため。

一緒に仕事をしている皆さんに、迷惑をかけちゃいけない。

話す時に頭の中が真っ白にならないようにメモを作ろう。頑張って、話しかけよう。

明日は、山本さんに自分から挨拶してみよう。


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