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20 カワイイ?

桐谷さんは足を止めずに、会社の目の前のお店に入った。

私の鞄はまたしても桐谷さんの肩にある。あれ、重いのに・・・。申し訳ない。

私も続いてお店に入った。

「ここのラーメンが美味いんだ。でも俺もこんな時間に一杯は食べれないから、汐崎も食べろよな」

「は、はあ・・」


戸惑っているうちに、桐谷さんは注文を済ませ、あっという間に湯気の上がるラーメンが一杯、テーブルの上に乗せられた。

桐谷さんは小さな器に麺とスープと具を取り分けて私の前に置くと、「ほら」と割り箸を渡してくれた。

「スープが美味いんだ。さっぱりしてて。いただきまーす」

「い、いただき、ます」

レンゲでスープをすくって飲む桐谷さんの真似をして私もスープを口にした。

「わあ・・」

すごく、美味しい。

初めて食べたお店で食べるラーメン。熱くて、麺がつるつるで、具がある。

美味しくて、お腹はいっぱいになったけど全部食べた。汁も飲んだ。

そしたら桐谷さんが「お。全部食べたな。偉いぞ」って笑った。

なんで、褒めてもらったのかよく分からないけど、褒められれば嬉しい。




食べたあとは、またアパートまで送ってもらった。

この人、社長サマなのに、どうして一社員の私にここまでしてくれるんだろう。

皆に好かれているのは、こういう部下を大事んいるところなんだろうな、と一人で納得した。


「それじゃあ、おつかれさまでした」

お辞儀をして鞄を受け取る。ズシリと重い。


桐谷さんは、少し言いにくそうに首元に手をやりながら私を見た。

「汐崎、・・・ここのアパート、大丈夫か? 不審者情報も出ていたし・・」

ああ、お昼のメールだ。送ってくれるのは防犯を心配してくれているんだ。

さすがは社長。

でも、山本さんみたいな女性ならともかく、私みたいな地味でつまらなさそうな女を襲う輩がいるとは思えない。


「だいじょうぶです。私なんて、誰も襲ったりしませんよ」

「・・・お前ね。お前みたいな女のコが、私なんてーって言ってたら、一体誰が痴漢を心配するっていうんだよ」

「・・・?」

はーっと深いため息をついた桐谷さんは、私の頭をポンと叩いて困った顔で笑った。


「まったく、お前は自覚ないかもしれないが、お前は可愛いんだ。もっと警戒しろ。まあ、・・しばらくは帰りは送ってやるよ。じゃあ、またな」


バタン、と閉まるドア。私は誰も居ないドアを見つめポカンとしていた。

桐谷さんは、今、なんて言った?



わたしが? わたしが、・・・カワイイ?


初めて、男性からかけられたカワイイという言葉にしばらく長考した。

新入社員・・未成年でたよりない・・女子・・・つまりカワイイ部下。

そういう感じ、なのかな。うん。

と頭の中を整理させた。





*****


それから次の日も、また次の日も桐谷さんは、毎晩八時に帰ろうとする私を呼び止め、九時過ぎまで残業してから私を送って行ってくれた。

本当に申し訳ないので、結構ですからとお断りするんだけど、いつも・・なんていうか、言いくるめられてしまう。


今日こそはきちんと言おう。

「あ、あの、桐谷さん。私、一人で帰れますから」

桐谷さんは、手にしていた書類から顔を上げて、私を見る。


「・・でも、汐崎、家でも仕事するんだろ? だったら会社でやればいい。

この部屋は俺がいるんだから電気も付いてるし。家の小さいスタンドより目に負担がかからなくて良いだろ。それに・・」


桐谷さんは、言葉を切って席を立った。私の目の前にくると、私の鞄を肩から外してデスクの上に置く。


「君は平社員だから、残業した分だけ残業代をもらって良いんだ。

勿論限度はあるが、九時までくらいなら大丈夫だろ。ここでやったほうがいいぞ」


家でやればタダ働き。でも、ここでやれば勤務時間にプラスしていい。だったらここでやるに決まってる。






そして、結局、毎日二人で残業している。

一緒に歩く帰り道で桐谷さんが「腹がへった」と何処かの店に入る。

何かを食べて、それを私がひとくちもらう。

うどんだったり、牛丼だったり。

どれもこれも美味しいすぎるんだけど、お金を使わせてしまって申し訳ない。



「あの、そんな毎回奢ってもらってはいけないので、あの・・」


目の前に置かれたホカホカのチャーハンとから揚げを前に、私はそう切り出した。

桐谷さんは構わずに食べ始める。


「どうせ俺が食べたいから買うんだし、食べきれなくて残す分をお前が食べてるんだから、誰も損してないだろ」

・・それは、確かに。


「お前が食べなかったら、残飯で捨てられるんだぞ」

そ、それは大変! もったいない!

「・・い、いただきます」

「はい、どうぞ」


うーん、じゃあ、いいのかな・・?


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