【第十八話〜木漏れ日の温もり〜】
皆さん、こんにちは
十八話を投稿します
十七話の後編としてお読み下さい
「悪い、待たせた。」
内藤が掃除をやっと終えてきた。
「遅いわよ、このばかっ!」
「ばーか。」
「ば、馬鹿って言う奴が…」
内藤の言葉が途中で止まった。隣にチラリと目をやるとそこには冷めた微笑みがあった。
「内藤くん、馬鹿って言った奴が何だって?」
「ぬわ、ぬ、ぬわぁんでもないですよ。
そ、それより早くお見舞い行かない?」
内藤にしては上手い話の切り返しで、俺達は当初の目的通り病院に向かう事にした。
俺は内藤と共に自転車で走っていた。津出は内藤の後ろにちょこんと座っている。今まで静かだった津出が不意に声を出した。
「あっ、内藤、止まって。」
「ぐぉふっ!!」
隣で変な声が聞こえた。何が起きたのかと、内藤の方に目をやると津出が内藤の腰をギュッと抱き締めていた。
内藤は急ブレーキをかけて止まったが、俺は敢えて止まろうとはしなかった。
2人を無視して走り去ろうとした俺を後ろから声が呼び止めた。
「ちょ!!燈也行くな!!」
「ちっ」
俺がスッとUターンして内藤の方を見ると、ゾンビのように俺の方へ手を伸ばしていた。内藤の横に戻って気付いたが、自転車の後ろに津出の姿はなかった。
「さっき舌打ちしただろ!」
「あれ、津出は?」
「舌打ちしたよな!」
「津出は?」
「うっ……あそこ……」
少し半泣きになっている内藤が指差した先では小さな花屋に津出が入って行った。
「ふわぁ…燈也はいーの?」
内藤が欠伸をしながら尋ねてきた。
「あぁ…」
俺の頭の中に空が入院してすぐの事が思い浮かんだ。
――その時、俺は買ってきた花束を花瓶に入れていた。
「なぁ、燈也。」
「ん?」
「もうわざわざ来る度に何かしら買ってこなくても良いぞ。」
「え?」
「こんだけしょっちゅう来るのにその度に何か買ってきたらすぐに金無くなるだろ?」
「いや、大丈夫だぞ。」
「馬鹿、意地を張るな。」
「でもなぁ…」
空はそれから少し悩むとこう言った。
「なら、花瓶の花が枯れてきたりしたらにしてくれ。あまり払わせたくないのだ。」
俺はその言葉に渋々納得した。しかし、実際はおばさんによってちょくちょく花束は変えられていて、なかなか俺が新しい花を持って行く機会はなかった。――
「あっやっと出てきた。」
内藤が店から出てきた津出を見つけた。津出の手には綺麗に纏められた花束が握られていた。
「あ、内藤この花束あなた持ちね。」
「えっ、ま、まじですか!?」
「冗談に決まってるじゃないっ!
だいたいそれじゃあなたからの花束になっちゃうでしょっ!」
「ほれ、バカップル行くぞ。」
俺はそう言うとペダルを踏みしめた。後ろからは津出が何かしら叫んでいるのが聞こえた。
少し長めの坂を一気に駆け上がると、真っ白い清潔感漂う建物がすぐに見えた。 冬が近づき、寒くなったとは言え、敷地内の芝生では散歩をしている人などがまだまだいた。
その光景は一瞬本当にこの建物が病院なのか俺を困惑させた。
「燈也どうした?」
「何でもねーよ。」
一瞬呆けてしまった俺はすぐに内藤の後を追って、駐輪場へと向かった。
俺達はそのまま外来患者用の出入り口ではなく、入院患者のお見舞い用の出入り口から中に入った。さっさとエレベーターホールに向かい、乗り込む。もう見慣れたエレベーターで上へと向かう。途中の階で誰も乗り込んで来る事はなく、すぐに到着した。
病室に入る前に、手を良く洗って、アルコールで除菌する。
そして目の前のドアをノックした。
「はい。」
「あっ!」
聞き慣れた2つの声が部屋から聞こえてきた。俺がドアを開けた瞬間に鶫ちゃんが俺へと飛び込んできた。
「にぃに、こんにちは。」
「おっ鶫ちゃん、こんにちは。」
俺が鶫ちゃんに抱きつかれたまま体をどかして、津出と内藤が入ってこれるようにする。
「空、お見舞い来たわよっ!」
「冷河、やっほー」
「お、津出に内藤じゃないか。元気だったか?」
「入院してる人が言う言葉じゃないでしょっ!」
「フフ…そうだな。」
津出と話をしている空はやはり嬉しそうだった。
「そうそう、これお見舞いの。」
「そんな気を使わなくていいのに。」
「いいんだって。」
「津出、ありがとな…」
「気にしないのっ!」
「なぁ…冷河…」
2人の会話を聞きながら、全員のパイプ椅子を持ってきていた内藤が空へ話しかけた。こういうさりげない気配りができる所は内藤の良いところだと思う。
「一応、それ俺からもね…」
「そうだったか、内藤もありがとう。」
俺に抱きついてキャッキャッしてる鶫ちゃんの頭をクシャッと撫で、ゆっくりとパイプ椅子に腰を下ろした。
「鶫、挨拶をしなさい。」
俺はその空の言葉を聞いて、苦笑してしまった。俺を見ていた空が不思議そうな顔でどうした?、と尋ねてきた。
「いや、空が鶫ちゃんの母親みたいだなー、と。」
「え!?この子空と燈也の子供!?」
内藤がいきなり素っ頓狂な声を上げた。
「そんな事ある訳ないでしょっ!」
津出がバシッと内藤を叩いた。
「こらこら、鶫が怖がってるじゃないか…」
いつの間にか鶫ちゃんは俺の腰にギュッと抱きついていた。
「鶫、今度こそ挨拶しようか。」
「は、はい。」
そう言って、鶫ちゃんはまだ緊張した様子で自己紹介をし、その後にぺこりと頭を下げた。
「まだ緊張してるな。」
鶫ちゃんは俺から離れてテクテクと空の所へと進んだ。空はひょいと持ち上げ、ベッドの上に座らせた。
「大丈夫、2人共優しいお姉さんとお兄さんだからな。」
「鶫ちゃん、あのお兄さんは好きに使っていいのよ。」
津出が笑顔で鶫ちゃんの近くのパイプ椅子に腰を下ろした。
「おいで。」
津出が鶫ちゃんへと手を伸ばす。その行動を見て、鶫ちゃんが空を確認する。空はゆっくりと笑顔で頷いた。すると鶫ちゃんは空から離れると、嬉しそうにぴょんと津出の膝の上に座った。
「何か妹ができたみたいね。」
津出が鶫ちゃんの頭を撫でながら言った。
「妹…響きがいいな…」
今まで無言だった内藤がぼそりと呟いた。
「鶫…」
「鶫ちゃん…」
ほぼ同時に声を出した空と俺を不思議そうにキョロキョロと見比べた。
「はい?」
「あいつには気をつけなさいよ。」
最後に津出は鶫ちゃんへと注意を促した。鶫ちゃんは津出の顔を確認した後、内藤へと一度目をやってから満面の笑みで答えた。
「はぃ。気をつけます。」
「ちょっ!!ひでぇ!!」
誰かが急に吹き出した。それが引き金になって全員が笑い出した。唯一鶫ちゃんだけがなぜ俺達が笑っているのか分からないようで、キョトンとしていた。
「…涼華ねえ。」
「何?鶫ちゃん?」
「ただ呼んだだけです。」
エヘッと鶫ちゃんは笑いながら言った。
「ん〜かぁわぁい〜な〜もぅっ!」
津出は鶫ちゃんの顔に頬ずりをしだした。俺と空、内藤はその様子を話しながら眺めていた。
「涼華ねえ、こしょばゆいです。」
「だって鶫ちゃんが可愛いんだもんっ!」
(津出、それは理由になってないぞ…)
意味の分からない理由を言った後に津出は今度は鶫ちゃんをギュッと抱き締めていた。
「涼華ねえ…あったかいです…」
「なぁ、空…」
俺は横目で津出と鶫ちゃんを見ながら、空のベッドに近づいた。
「どうした?」
空はそう言いながら、ベッドの上を少し動いて俺が腰を下ろせるようにしてくれた。俺はその空けてくれたスペースにゆっくりと腰を下ろした。
「ん〜何となくな…」
「ありがとう。」
ベッドに置いた俺の右手の上に空は左手をそっと重ねてきた。
俺は左手で空の左手を持ち上げると、右手を上向きにして、空の手をゆっくりと重ねた。そして、壊さないようにそっと握った。
「フフ…」
空の柔らかい声が俺の耳をくすぐる。
ゆっくりと部屋を見渡すと、津出はまだ鶫ちゃんを膝の上に置いたまま仲良く話していて、内藤はその様子を優しい笑顔で眺めていた。
俺はそのまま目を閉じた。俺の肩に微かな重みが乗っかってきた。
肩に温もりを感じた。手にも温もりを感じた。
空の温もりは俺から離れなかった。
今回もお読みいただきありがとうございます
皆さん今年の夏はどうですか?
自分は夏休みの真っ最中ですが、平日より忙しい日々が続き、まとまった時間が確保出来ないです…
はい、またいつもの言い訳ですw
…いや、実際忙しいんですよ?(本当ですよ?w
こんな更新ペースでもこの物語の読者が毎日0人の日が絶対無いってのは本当に嬉しい事ですし、やる気にも繋がります
毎度毎度の事ですが、本当に皆さんありがとうございます
次話も登場人物含めこんな作者を宜しくお願いします
でわ、次話でまた会いましょー