【第十五話〜未来への願い〜】
第十五話を投稿します
宜しければ読んでいって下さい
あの変な夢を見てから数日後、今日も俺は空の病室に来ていた。別に俺が何をした訳では無いが、あの日は罪悪感を感じていた。
「うーっす、入るぞ〜」
「どうぞ。」
俺の声への返事は今日は珍しく空1人の声だった。
「あれ?今日鶫ちゃんいないのか?」
「今日は検査と言っていた。
そうだ、燈也、鶫ちゃんの病室で待っててやれ。」
「あぁ。。じゃあ鶫ちゃんの迎えに行ってくるな。」
「燈也。」
「ん?」
俺は踏み出しかけた足を止めた。
「今日はよそよそしくないな。」
「へ?」
「ここ数日、燈也の様子がよそよそしかったから何かしたか不安だったんだ。」
俺は空から目を逸らす事が出来なかった。俺は自分自身気付かぬうちに空を不安にさせていた事にやっと今気が付いた。
「ご…めん。
別に空は何もしてないよ。ただちょっと…」
「ん?」
「いや…その夢を見て、な…」
「夢?
何か嫌な夢だったのか?」
俺の頭に夢での空の姿がまた浮かんできた。
「いや、ちょっと…その、へ、変な夢で…さ…」
もう空を直視する事が出来なくなった俺は頭をかきながら、明後日の方向を見た。そして、そんな俺をじっと見つめていた空は何か感じ取ったのかフッと笑った。
「夢の私は気持ち良かったか?」
「ゲフッゲフッ!!」
空のストレートな表現に俺は思いっ切り咳込んだ。
「ばっ馬鹿!!お前は何を言ってんだ!!」
俺のそんな様子を見て空はキョトンとしていた。
「何だ違うのか?」
「ちっ違うわ!!」
「なら今からやるか?」
そう言うと空は俺を迎えるように両手を広げた。
「も、もうお迎えに行ってくるわ!!」
俺はそう言って、「意気地なし〜」と呟いている空を無視して部屋を出ようとした。しかし、俺は足を止めた。
「なぁ、空。」
俺は振り返ると空に一歩近付いた。
「どうした?」
「その…心配させて悪かった。ごめん。」
「私は大丈夫だ。」
そう言うと空はニコリと笑ってくれた。
「ありがと…」
そう言って俺は空を軽く撫でると、鶫ちゃんの元へと向かった。
「こんにちは。」
「あら、燈也君今日はお迎え?」
鶫ちゃんが俺や空の事を話し回っているため、小児科のほとんどの人は俺達の事を知っていた。
「まだ鶫ちゃんは検査のはずよ。」
「そうですか…じゃあ待ってますよ。」
トントンッ
いないと分かっていても、俺は一応ノックをした。
俺は
「失礼しまーす。」と言いながら、静かにドアを開けた。
パイプ椅子を引っ張り出して腰を下ろした。俺は静かな病室でのんびりと待っていた。
何分たっただろうか、病室のドアが開く音で俺は少し落ちかけていたまぶたを戻した。
「あっ、にぃに!」
鶫ちゃんは俺だという事に気付くと、パタパタとスリッパを鳴らしながら、やって来た。
「にぃに、ただいま。」
「ん、おかえり。」
俺は近寄ってきた鶫ちゃんの頭を優しく撫でた。
「じゃあ、お兄さん後はよろしくね。」
鶫ちゃんを連れてきた看護士さんはそう言うと、病室から出て行った。
「鶫ちゃん少し休む?」
「空ねえの所に行きたい。」
「よしっ、じゃあ行こうか。」
俺はそう言って立ち上がり、パイプ椅子を元あった場所に片付けて、鶫ちゃんの小さな手を握った。
「ほらほら、このお兄さんが僕のにぃになんだよ。」
「どうも〜」
鶫ちゃんは知り合いに会う度に俺をその人に紹介する。俺の記憶ではもう俺を紹介した人にでさえ鶫ちゃんは再び紹介していた。
「優しいお兄ちゃんが出来て良かったねー。」
「自慢のにぃにです。」
鶫ちゃんは俺の顔を見上げた後、こっちが恥ずかしくなるくらい胸を張って自慢をした。
鶫ちゃんの話を俺が聞いているとすぐに空の病室に到着した。
トントンッ
鶫ちゃんの小さな手がドアを叩く。
「空ねえ〜」
鶫ちゃんはそう言うと、空の返事を待たずに病室へと入っていった。
「空ねえ聞いて、聞いて。」
「鶫、どうした?」
俺は空と鶫ちゃんの会話を聞きながらドアを後ろ手に閉めた。
「今日、にぃにがお迎え来てくれたんだよ。」
「そうか、それは良かったな。」
パイプ椅子を二つ取り出し、両方とも組み立てる。俺は一つに腰を下ろして、二人の会話に耳を傾けながら、少し目を閉じた。
「でねでね〜」
鶫ちゃんのまだ幼さの残る可愛い声が耳に響く。
「燈也が何かやったのか?」
空の温かい優しさのこもった声が俺を満たす。
「あ…にぃに寝てる…」
「ふむ…疲れているのだろう…鶫…少しだけ静かにお話ししようか。」
「ぅん…」
俺は眠り行く意識の中で願っていた。
今この空間が病室ではなく、家で笑い合える未来が来る事を。
今回もお読みいただきありがとうございます
今回の話は当初、前回の話と関係はなかったのですが、考えていくうちにやはり前回と関係付けてみました
前回の物語に特に深い訳はなく、思春期の燈也を書いてみました
ぜひ前話と共にお楽しみ下さい
これからも燈也、空、その他のキャラクターそして作者含むてこの物語を宜しくお願いします