【第十三話〜幼き笑顔〜】
第十三話を投稿します
今作は新しいキャラが登場します
どうぞ読んでいって下さい
「あはは〜」
病室から幼い笑い声が聞こえたため、俺はノックしようとしていたた手を止め、病室の名札を確認した。しかしそこにはしっかりと俺の幼なじみ、そして俺の彼女の名前である[冷河 空]という文字がしっかりと書かれていた。
俺は一呼吸置いてから、二度ドアをノックした。
病室からは空の柔らかい声が返ってきた。
「はい。」
「あ、俺だ。入るぞ。」
「おう。」
俺が病室に入ると空と先程の声の持ち主であろう小さいお客さんがいた。
その小さいお客さんは小学校低学年、いやもう少し小さいだろう少女がちょこんとパイプ椅子の上に座って、微笑んでいた。
「何をあほ面している。早く座れ。」
「あ、あぁ…空、この子は?」
俺は広げてあったパイプ椅子に腰を下ろしながら空に聞いた。
「この子はな」
空の言葉を引き継ぎ少女が自己紹介をしだした。
「僕は[岡川 鶫]です。お兄さんは?」
その少女は髪を肩の少し上辺りで切りそろえられてた。その髪は少女が足をばたつかせる度に軽やかに揺れていた。
入ったと同時に気付いた事はその少女の服がこの病院の入院患者用の服だったという事だ。
「…お兄さん?」
少女の無垢な瞳が俺に向けられていた事に俺は気付いた。
「あぁ…ごめん…えと…俺は久遠燈也。
空のか…まぁ深い知り合いなんだ。
んーと…お、岡川ちゃんは空といつ仲良くなったの?」
俺は軽く自己紹介をした後、沈黙になるのは気まずくなると思い軽く質問した。
「鶫、この馬鹿は私の彼氏だ。鶫よりガキな奴だが優しくしてあげてくれ。
後、そんなに緊張しなくても大丈夫だぞ?」
空は緊張しているらしい岡川と名乗った少女に優しく微笑みかけた。
少女は深呼吸をすると、ゆっくりと話し始めた。
「あ、あの、僕はね…こないだ検査の順番待ってる時、空ねえと色々お話ししてもらったんです。
それでその後ジュースもらって、それからまた少しお話しして仲良くなったの。」
「と言う事だ。で、時々勉強を教えてあげたりしてるんだよ。
ね?鶫?」
「うん。空ねえには色々優しくしてもらってるの。」
少女はピョンと椅子から降りるとテクテクと空のベッドの端に腰を下ろした。
「よろしくね、岡川ちゃん。」
俺がそう言うと、岡川ちゃんは一度コクンと頷いた。
「うん。よろしくお願いします。」
それからは三人でたくさん話をした。
主に岡川ちゃんが俺達に話しかけ、それらを俺達が聞く。そしてたまに空が俺を馬鹿にする。それを見て岡川ちゃんが笑う。
俺達はそんな柔らかい、ほのぼのとした時間を過ごしていたた。
そんな時、岡川ちゃんの声が少しずつ小さくなっていった。
「どうしたの?」
「鶫、どうした?」
俺達はあからさまに元気をなくしてきている岡川ちゃんを心配した。岡川ちゃんは俺達の言葉を受け、ゆっくり顔をあげると、話し始めた。
「あ、あの…僕の事鶫って呼んで…だから…お兄さんの事……」
岡川ちゃんの声はさらに小さくなっていき、途中で言葉は途切れてしまった。しかし、頬を真っ赤にしながらも一生懸命に喋る姿はとても可愛らしかった。
俺と空は静かに岡川ちゃんの次の言葉を待った。
「あの…お兄さんの事…に、にぃにって呼んで…いいですか?」
予想外な岡川ちゃんの頼みに俺は断る気持ちなんて全くなかった。
「もちろんだよ、鶫ちゃん。」
俺がそう言った瞬間に俯いていた岡川ちゃんが顔を上げ、少し照れている様子ながらも満面の笑みを返してくれた。
「にぃに。ありがとっ」
(ヤヴァイ…可愛すぎ…)
「こんな奴がお兄ちゃんで良いのか?」
鶫ちゃんを優しく見つめている空が話しかけた。
「うん!」
鶫ちゃんはそう答えると、今度は俺の方へ向かってきて、俺の膝にちょこんと座った。
それから後も先程とちっとも変わらない三人の家族のようにさえ思える温かい時間は少しずつ過ぎていった。
ふと時計を見ると、いつの間にか面会終了の時刻が近付いていた。
「あっ…そろそろ時間か…」
俺は鶫ちゃんを隣の椅子に座らせてから立ち上がると、パイプ椅子を片付け始めた。
空は鶫ちゃんに優しい微笑みを浮かべながら「鶫、そろそろ時間だから自分の部屋に帰りなさい。」と言った。
「うん。にぃにと部屋帰る。」
そう言って、椅子からパッと下りると、俺の後ろに回って、腰辺りに抱きついてきた。
微笑みながら俺と鶫ちゃんを見つめる空の顔はあたかも母親か姉のような慈愛に満ち溢れた物になっていた。
鶫ちゃんの椅子も片付けた俺は空のベッドに近付くと、空が口を開いた。
「一緒に行けなくて悪いな。」
「気にすんな。じゃあな、空。」
「あぁ。」
俺は空の頭をクシャッと撫でた。空は目を細め、俺の手の動きに任せていた。
「じゃあ、帰るぞ。」
「待て。」
そう言うと同時に空の手が俺の手首を掴む。
空は俺の顔をジーッと見つめるながら少し唇を尖らしていた。
俺は空の行動を理解し、鶫ちゃんがまだ俺の腰辺りに抱きついていて、見ていないを確認すると、一瞬だけ唇を重ねてすぐに離れた。
「フフ…ありがとな…」
「俺に拒否権ないしな〜よし、鶫ちゃん帰ろ。」
「うん。」
抱きついていた手を離すと、ドアの方へ歩き出した。
「じゃあ、空ねえまた来るね。」
「空、じゃあな。」
「鶫、燈也またな。」
空の病室を出て俺は鶫ちゃんに聞いた。
「鶫ちゃん、部屋はどこなの?」
「えっとね……もう1階下の6番のお部屋。」
「6号室なのかな?…まぁいいや…行こっか?」
俺は鶫ちゃんに向かってそっと手を差し出した。
鶫ちゃんは俺の差し出した手をじっと見ていた。
「どうしたの?」
「んと…えと…」
俺の手を見ていた鶫ちゃんの目はいつの間にか遠慮がちに俺の目を見つめていた。
「そ…その…にぃに…にお、おんぶをしてほしいんで…す…」
俺は鶫ちゃんの頭を優しく撫でると、鶫ちゃんに背を向けしゃがみ込んだ。
「はい、どうぞ。」
「ありがとう、にぃに。」
鶫ちゃんはそう呟くと俺の背中に寄りかかり、両手を俺の首のところで組んだ。
俺は鶫ちゃんの太もも辺りを手で持ち、ゆっくりと立ち上がった。
(えっ…!?)
俺は鶫ちゃんが本当に俺の背中に全体重を預けているのだろうかと思うほど軽い事に驚いた。そして、その軽さは俺に鶫ちゃんがどれほど病魔に蝕まれているのか考えさせるには十分だった。
(この小さな体でどれだけ頑張ってんだよ……)
「にぃに?」
鶫ちゃんが心配そうに尋ねてきた。
「あっごめんね。じゃあ行くよ。」
「はぃ。」
鶫ちゃんは顔をギュッと押し付けていたので俺が歩く度に鶫ちゃんの短い髪の毛が俺の首筋をくすぐってくる。
「鶫ちゃん、今日はお父さんとかお母さんは来なかったの?」
「んと…僕のお父さんはいないの。
お母さんは一生懸命お仕事してるから来れないの…」
俺は言葉を無くしてしまった。いくら何でも考えなしに聞いてはいけない事だった。
「でも…」
そんな俺の考えを遮るように鶫ちゃんは呟いた。
「でも?」
「今は…お母さんが来れなくても僕は寂しくはないです。」
鶫ちゃんは一呼吸置くと、ゆっくりと口を開いた。
「僕に空ねえとにぃにができたから…」
鶫ちゃんはそう呟くと今まで以上に強く顔を押し付けてきた。
「鶫ちゃん…ごめんね…」
そう言った後、俺は続けた。
「鶫ちゃん、どんな時でもいいから何かあったら俺とか空にすぐ教えてね。鶫ちゃんのお母さんやお父さんの代わりはできなくても、それでも、それでも鶫ちゃんのお兄さんやお姉さんではいてあげられるから…」
俺はゆっくり言葉を選びながら鶫ちゃんへと声をかけた。俺の背中では鶫ちゃんの嗚咽が洩れていた。
それは今まで幼い鶫ちゃんの中で溜まっていた物が落ちていったようにも思えた。
「鶫ちゃん…もうちょっとゆっくり行くよ?…」
「う゛…う゛ん…」
俺はエレベーターを使わずに少し遠回りをして、階段で下りていった。
俺の首筋を冷たい物が流れ落ちていった。
俺が鶫ちゃんを病室の前に連れて行く頃には鶫ちゃんは泣きやんでいた。
「にぃに、ここでもう大丈夫です。」
「分かった。じゃあしゃがむまで待っててな。」
俺はその場でゆったりとしゃがみ、鶫ちゃんを丁寧に降ろした。鶫ちゃんは俺の前に回ると笑顔で「にぃに、ありがと。僕、にぃに大好きだよ。」と言って、鶫ちゃんは部屋に戻って行った。
「俺も帰るか…」
俺は伸びを一度し、深く息を吸うとと、出口へと向かった。
俺の肺は慣れてきた薬品の臭いによって満たされた。
今回も読んでいただきありがとうございます
空と同じ病院に入院している鶫ちゃんの登場です
幼くて天真爛漫な鶫ちゃんの言動にこれからも注目していてあげて下さいw
自分的にはとても動かしやすいキャラですwwww
これからは多分結構登場してくると思うので空、燈也同様に暖かい目で見ていただきたいと思っていますw
でわ、今回はこのくらいで…
次話以降も宜しくお願いします(`・ω・)