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苦手な恋愛短編シリーズ

夏祭り

作者: 鳥越 暁

 今夜は夏祭りがある。小さな町だがこの夏祭りは割と大きな祭りで近隣の町からも来たりする。とは言っても全国ニュースになるほどではない。


 私は高校時代に一度着ただけの浴衣を着て祭の会場に入る。屋台もたくさん出ていて賑やかだ。


 輪投げの屋台が目にとまった。そう言えば四年前は祐二と来たな。祐二は輪投げが上手かった。私は小さな『くまのキーホルダー』が欲しくて、彼にねだったんだっけ。


 どうしているかな、彼。私達は高校二年の冬から付き合い始めた。彼からラブレターをもらったのよね。まだ、そのラブレターは捨てずに取ってある。私は彼の事を特に好きではなかったけど、そのラブレターの内容に『きゅんっ』ときて付き合ったのだったわ。でも私はすぐに彼の事を大好きになった。スポーツマンで爽やかで優しくて……。


 祐二、覚えてる? あなた、四年前にここで言った事。『僕が社会人になったら結婚しよう! 』そう言ったのよ。でも昔の話ね。


 「お嬢ちゃん。どうした? やるかい? 」


 輪投げのおじさんが話しかけてきた。私は祐二の事を考えながら、じっと輪投げを見つめていたようだ。


 「ううん。後でね。」


 そう言って輪投げの屋台を通り過ぎる。

 特設舞台では地元出身の漫才師が漫才をしている。彼らは最近テレビでも見るようになってきた。地元で応援している人もそれなりに多い。




 私達が別れたのは、私のわがままというか嫉妬だ。毎日メールしたり、電話したりしていたけど、顔を見たくて、ぬくもりを感じたくて仕方がなかった。彼が東京の大学に行く時に、遠距離恋愛は難しいと友人達は言っていたけど、私達は大丈夫だと思っていた。この祭りでのプロポーズがあったから自信があったの。


 でも、離れている事があんなに苦しいとは思わなかった。寂しくて連休があると彼の住む東京へ行ったわ。会っている時はすごく幸せだった。でも帰ってくると寂しさはもっと強くなったの。

 ある時、彼に電話したら、女の人が出た。彼は大学のサークルの友達だって言い訳した。でもその女の子は『祐二』って呼び捨てにしたのよ。その言い方で祐二に気があるって思った。彼は、必死に誤解だよって何度も言ったけど。私には耐えられなかった。やきもちを焼いている自分に、祐二を困らせている自分に。そして離れてから二年後、そう今から二年前に私からさよならを言ったの。


 四年前にこの祭りに一緒に来た時は、私はこの浴衣。彼はジーパンに洗いざらしの白いティシャツだったわ。「なによ~。 もう。お祭りらしい格好してきなよ~。」なんて言ったけど、彼らしく清潔感があってドキドキしたなぁ。


 実はこの祭りに来るのはあの時以来なの。彼の事を思い出しそうで怖かったから。やっぱり今も彼の事を思い出してるけど、悲しくない。いい思い出になったのかな。


 四年前と同じ店を歩いて見る。金魚すくい…… 綿菓子…… たこやき…… 、そして輪投げ。再び輪投げの所に来て商品を見てみると、『くまのキーホルダー』があった! あの時と同じ物だわ。

 私は百円を払って五回投げた。かすりもしなかった。なぜか意地になってもう百円払った。

 

 私が投げた時、横の人が同時に投げた。私の輪っかははずれ。なんと横の人が投げた輪っかが『くまのキーホルダー』に入った。


 「あっ! 」


 私はおもわず声を上げていた。だって私が欲しかったんだもの。

 悔しくて横の人を睨んでやろうと顔を向けた。


 「あっ! 」


 そこには祐二がいた。


 「相変わらず、下手だね。」


 祐二は爽やかに笑って『くまのキーホルダー』を手渡した。


 「どうして? どうしてここにいるの? 」


 「逢いに来た。」


 祐二は笑みを絶やさないで言う。


 「取り敢えず、少し歩かないか。」


 祐二は私の手を引いて歩きだした。あのころと変わらない大きな手、格好もジーパンに白いティシャツだ。ちっとも変ってないのね、あなたは。


 私達は祭の広場の端っこにある休憩用のベンチに腰掛けた。


 「僕は帰ってくるよ。町役場に就職が決まったんだ。」


 「あら。そうなの。良かったね、就職決まって。おめでと。」


 今日はずっと貴方の事を考えていたのよ。そう思うとなぜか恥ずかしくて彼の顔をまともに見れなかった。あれほど顔を見たいと思っていたのに…… だってまだ好きなんだもん! ずっとずっと好きだったんだもん!

 気付くと私は泣いていた。彼の胸に顔をうずめて泣いていた。


 「ごめんな。ごめんな、由美。改めて結婚してくれ。」


 彼はそう言って私をそっと抱きしめた。


 私は泣きながら彼から体を離すと言ったの。


 「だって、私達、別れたのよ!? どうして? 私にはもう別の人がいるかもしれないのよ? 」


 祐二は笑っていた。とてもさわやかな笑顔で。


 「だって僕はずっと由美が好きだったんだよ。由美だって、そうなんだよ。」


 根拠がないのに自信満々なのはなぜ? そう思ったけど私は黙って頷いていた。



 「もう。お祭りらしい格好してきなさいよね。」


 私は照れ隠しで四年前と同じ事を言った。


 「その浴衣も、君も全然変わらないね。」


 私は再び彼に抱きついた。


 『ひゅ~~~っ ぱんっぱんっ! 』


 その瞬間、花火が上がった。花火の音を聞きながら二年半ぶりに彼とキスをした。



 



      来年、彼と結婚するのっ!


 

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― 新着の感想 ―
[一言] 読ませていただきましたので、感想を置かせていただきたいと思います。 想えば想うほど、気持ちってすれ違ってしまうものだな。 そう思いながら読ませていただきました。 こんな別れ方でも、再会し…
2013/07/27 13:01 退会済み
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