源九郎と和葉
その夜、源九郎は家に帰ると、なんだかぼうっとした顔で笠を編んでいる娘がいた。手は動かしているのだが、考え事をしているようで、心ここにあらずといった様子だ。家の中は、ほわっと藁の匂いがして暖かい。
「ただいま」
源九郎が雪の匂いをさせて言うと、キリは顔をあげてお帰りと言った。心なしか、ほっとした表情だ。
「今日はどうだった?」
キリが問うと、源九郎は担いできた二羽のうさぎを黙って示した。キリはお疲れ様と言い、微笑んだ。
源九郎がかんじきをはずして雪靴を脱いでいると、その間にキリは蓋をした鍋を囲炉裏にかけ、温め始めた。キリは帰りの遅い父のために、雑炊を作って温めるだけにしておいたのだ。
源九郎は土間からあがると、つま先を火のそばにあててよく揉み始めた。いくら防寒対策をしていても、身体の隅の方はどうしても凍えてしまう。凍傷にならないように気をつけねばならない。しばらくそうしてつま先を暖めていると、じんわりと暖かさが沁みこんできた。
囲炉裏の鍋から湯気がたち始めると、キリはお椀に雑炊をよそり、箸を添えて源九郎に渡した。源九郎が雑炊をすすり始めると、キリはぽつりと言った。