予感7
ふと、窓の外を見ると、もう大分日が傾いてる。ずいぶん長く、話し込んでしまったようだ。冬の昼は短い。いったん日が傾き始めたら、日没までもういくらも残されていない。日が暮れてから、帰るのは危険だ。
「いけない!」
ハルは急いで帰る支度をし始めた。キリはそんなハルを手伝い、慌ただしく見送る。
「じゃあね!キリ!」
そう言って、ハルは手を振りながら、速足で帰っていった。段々小さくなる背中を見送りながら、キリも小さく
「じゃあね。ハル……」
と呟いた。
ハルは忙しく足を動かしながら、今日のキリの様子について考えていた。今日のキリはなんだか変だった。初めは、自分の結婚の話のせいかと思ったが、どうもそれだけが原因ではない様だ。初めにキリの名前を呼んだ時も、なにか考え込んでいる様子だったし、力の話をした時も明らかに迷いの色が、あの優しいキリの目に浮かんでいた。
キリは何か私に隠しごとをしている。それも、キリの力に関係することで。
自分には、なんでも話してくれるキリが、自分に話せないこと。それは、よっぽどのことだ。他愛ないことなら、キリはわたしに話してくれる。なにか、大変なこと。そして、わたしに話しても、どうにもできないこと。優しいキリのことだから、わたしに重荷を背負わせたくないのだろう。
ハルはため息をついた。白い息が風に流される。(水臭いじゃない、わたしたち親友なのに……)自分にもキリと同じ力があったら、キリは話してくれただろうか。
その時、ひと際強い風が吹いて来て、ハルの髪をびゅうっとなぶった。ハルは身震いして、襟元を掻き寄せ、より一層足早に帰って行った。