予感4
キリは、びっくりしてしまった。いくらなんでもこんな高級なお菓子だとは思っていなかった。こんなお菓子はきっとキリのような貧しい者には一生縁がないものだし、ハルだってそうそう口にできるものではないのだ。あらためて気おくれがして、ハルの方をちらっと伺うと、ムッとした顔のハルがいたので、キリは観念して素直に頂くことにした。
落雁を口に含むと、ぽろっと溶けて優しい甘さが口の中に広がった。
「ありがとう。ハル。なんてお礼言えばいいのかな。すごく嬉しい。ほんとにかわいくておいしいお菓子だね。わたし、こんなの初めて」
「ううん。キリが喜んでくれてうれしい。どういたしまして……」
キリが幸せな気持ちになって言うと、ハルの顔にふと影がよぎった。いつも明るいハルの顔に影は似合わない。キリは不思議に思って、ハルに尋ねた。
「どうしたの?なんだかハルらしくないよ」
「あのね。わたし、弥生の月になったらお嫁に行くことになったの。その落雁はね、父さまが結婚のお祝いにって特別なの。だから、もうすぐキリとはお別れになってしまう」
キリは衝撃を受けた。ハルがお嫁に行くなんて、全然思ってもみなかった。でも、考えてみれば不思議じゃない。ハルは器量もいいし、家もキリと比べたらずっと立派で、もう16歳で年頃だ。キリと同じ16歳でも、キリとハルでは意味が違う。ハルは人並みに結婚して、子供を産み、幸せな家庭を築くだろう。ハルにならそれができるし、きっと難しいことじゃない。でも、除け者のキリは……。落雁の甘さの中に、かすかな苦さが混じった。
「ハル、よかったじゃない。おめでとう。お相手はどんな人なの?」
うつむいてハルは答えた。
「まだ、一回しか会ったことはないけれど、五歳年上で、優しくて真面目そうな人だった」
「それのどこが不満なの?ほんとうにおめでとう。ハルなら、笑いの絶えない素敵な家庭を作れるよ。自分のことのように嬉しい。どうしよう。なにかお祝いしなくちゃ。ごめんね。急な話だから、今なにもなくて」
キリはハルを元気づけるように言うと、がさごそと慌ただしくそこら辺を引っ掻きまわした。ハルはそんなキリを見てぷっと吹き出し、いつもみたいに明るい大きな声で笑った。キリもハルの笑い声に安心し、照れ笑いをした。