予感2
「キリー!」
明るい声が自分の名前を呼ぶのを聞いて、キリは物思いから覚めた。そして、キリの唯一の友人、ハルを認めると、一瞬驚いた顔をして、ぱっと顔中笑顔になって叫び返した。
「はるー! いきなり、どうしたの? 寒いでしょ。早く家に上がって」
ハルはにっこり笑って
「父さまがね。街に行ったお土産にお菓子を買ってきてくれたの。キリにもわけてあげようと思って。内緒だよ」
と言って、また悪戯っぽく笑った。
「ありがとう」
キリはそう言いながらも、内心複雑な気持ちだった。ハルの父親はあまりキリをよく思っていない。むしろ、嫌っていると言ってもいいほどだ。お菓子は決して安いものではない。ハルの父はハルが可愛いからこそ、ハルに買ってきたのだろう。それがキリのような薄気味悪い娘に、大事な愛娘が貴重なお菓子をわけ与えていると知ったら、ハルの父はきっといい気がしないだろう。お菓子はうれしいが、キリのせいでハルの立場が悪くなるのは、耐えられなかった。
「さぁ、入って。待っててね、今お湯沸かすから」
キリはハルを家に招き入れると、囲炉裏の灰を掻いて火をおこし、薪を足して五徳の上にやかんを置いた。しん、と冷えた家に、熱が広がっていく。
「キリ。また何か気にしてるでしょ?」
腰をおろして、ハルはちょっと怒ったように言った。
「あのね、キリ。私が貰ったお菓子なのよ。どうするかは、私の勝手なの。私は、一人でお菓子を食べるより、キリと一緒に食べたほうがおいしいの。父さまだって、私がおいしくお菓子が食べられる方がいいに決まってるわ。ねぇ、わかった?」
キリは苦笑してわかったと言い、ハルには敵わないなと思った。ハルはキリの気持ちなんてなんでもお見通しだ。キリはハルが友達で本当によかったと思った。
ハルは、きれいな黒髪にくりくりとした大きくて明るい瞳を持った少女だ。キリはハルとは対照的で、母譲りの栗色の髪に、切れ長で茶色く優しい瞳を持っている。キリとハルは、数えで同じ16歳だ。キリは自分だけ違う髪や目の色に劣等感を持っていて、ハルのことを羨ましく思っている。だが、ハルはキリとは逆に、キリの明るい栗色に憧れていることをキリは知らない。キリは、ハルにだけはなんでも話せた。そして、それはハルも同じようだった。二人は姉妹のように仲が良くて、キリはときどきハルと本当の姉妹だったらいいのにと思う。