警告
キリは暗闇の中にいた。いつものあの夢だ。
地鳴りのような音が聞こえてきて、キリは不気味な赤い光に包まれる。……と、いつもならそこで夢は終わるのだが、今回は様子が違った。まだ夢が続いている。
赤い光に包まれた後、いがらっぽい匂いがしてキリは目を開けた。暗かったのが、明るくなっている。目の前は奇妙に歪んでいて、よく見えない。まるで、水の中で目を開けて見た風景のようだった。
ハルの顔が見えた。横たわり、真っ赤な顔をして、苦しそうな息をしている。
「ハル!」
思わず叫んで、ハルの額に手を当てようとすると、霞か何かを触ったように手がすり抜けてしまった。何度試しても同じことだった。
「ハル!わたしはここよ。一体どうしたの?ねぇ聞こえる?」
声をかけても、ハルは聞こえていないのか、目も開けない。相当熱があるようで、ぜいぜいと喘いでいる。
すると、突然背後で話し声がした。振り返ると、ハルの母親と父親がいた。こちらも、キリの姿が見えないようで、二人で何やら小声で話しこんでいる。
四朗……同じ……流行っている…………疫病……助からない。声がくぐもっていてよく聞こえなかったが、断片的にそのような単語が聞き取れた。それだけで、何が起こっているのかを、キリが理解するには十分だった。
ハルは、ひどい疫病に罹っている。四朗と同じ病なのだろう。この冬流行っていた病はただの風邪じゃなかったのだ。体力のある若者の命も奪ってしまう、恐ろしい病だ。
そうキリが悟った瞬間、めまいと割れるような頭痛がした。立っていられなくなり、思わずしゃがみ込むと、雪崩のようにいくつもの映像が頭に流れ込んできた。疫病で苦しむ大勢の人々。キリが知っている顔もいくつかあった。それから、真っ赤な画面。倒壊した建物。鼓膜が破れそうに大きい地鳴りのような音。
後半になって行くほど、抽象的な像で早送りのようになっていった。地面が揺れているようで、吐き気がした。頭痛が耐えられないくらい強くなり、キリはなにもわからなくなった。