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狐の娘  作者: トーコ
13/21

源九郎と和葉5

 父の話が終わって、キリは息をのんだ。まさか、母が狐だったとは……。それよりも、父にそんな意外な一面があったなんて……。驚きすぎて、次の言葉が出てこない。

 キリが黙っていると、家の中は沈黙が広がり、外の風の音がする。今夜も吹雪いているのだろう。ガタガタと戸がなった。


「母さんのこと、黙っていて悪かった。お前が一人前になったら、言おうと思っていた。お前も、もう結婚してもおかしくない年齢だ。もう秘密を知ってもいい頃だろう」

「母さんはな、お前のことをとても心配していた。お前が自分のせいで、辛い目に会うんじゃないかと。お前、人にはない力があるだろう?」

 おもむろに源九郎に問われて、キリは内心ぎくっとした。父には言っていなかったのに、父はお見通しだったのだ。

 そんなキリを見て、源九郎は苦笑した。


「毎日一緒にいれば、お前のことくらい言わなくてもわかる。それに、母さんのこともあるしな」

 そして、急に視線を鋭くすると、言った。

「お前は、母さんより勘が鋭い。どうしてそうなったのかは分からない。母さんは、まだお前が幼い時に言っていた。『この子の力はまだ大したことはないけれど、そのうちもっと強くなる予感がする。心配だわ』とな」

「お前、最近夢でうなされているだろう。この先、お前はその力とうまく付き合わなきゃならん。その力のせいで危ない目にもあうかもしれない。その力は便利なこともあるが、不便なことも多い。いいか、気をつけろよ。絶対に、油断するな」

 キリは父の言葉に瞬いた。父の目は真剣だ。ふいにうなじの毛が逆立つのを感じた。心臓がどきどきする。キリは、唾を飲み込むと、父と同じくらい真剣な瞳でうなずいた。

 源九郎は、そんなキリの様子を見ると、ふっと肩の力を抜き、キリを安心させるように微笑んだ。

「いい子だ。色々聞かされて疲れただろう。今日はもう遅いからお休み」


**

 

 キリは、藁布団の中で父の話を反芻してみた。一度にたくさんの話を聞かされて、まだ頭が混乱していたが、胸にすんなり入ってくる話もあった。

 キリは、ずっと人と違う自分を疑問に思っていた。和葉が狐だったことは衝撃だったが、不思議と嫌ではなかった。

 自分の母が狐だったのだから、もっと落ち込んでもいいはずなのに、全然嫌な気持ちにならないのが、キリは自分でもわからなかった。むしろ、長年胸の奥で燻ってきた疑問が解けて、妙にすっきりした気持ちだった。

 自分が普通じゃないことは分かっていた。ただ理由を知らなかっただけだ。今日理由を知り、やっとはっきり自分を異端だと認めることができた。(わたしは、人じゃないんだ)そう思った瞬間、ハルの顔が思い出されて、胸が痛んだ。嫌ではないけれど、ひどく寂しい気持ちだった。


 昔、キリが質問した時の悲しい母の瞳が思い出された。あの時、母は優しくキリの涙をぬぐってくれた。

 色白だった母の顔。キリと同じ色の瞳。日にあたると、藁のように金色に輝いて見えた髪の毛。大好きだった母。

 キリは源九郎のことも、和葉のことも好きだ。大切にキリを育ててくれた二人を嫌いになれるはずがない。

 キリが泣きながら尋ねたとき、和葉はどんなに寂しく辛い気持ちだっただろう……。父が言ったように、キリの母に代わりはいない。和葉だけが唯一無二の母なのだ。母がなんであろうと、和葉はキリの母親に違いない。そう思うと、胸の中の靄が少し晴れるような気がした。 

 (これからは、父さんの言うようにより一層気をつけなきゃいけない。わたしは狐の娘なのだから……)そんなことをつらつらと考えているうちに、キリは眠りについた。


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