源九郎と和葉4
俺の母さん、つまりお前のばあさんがな、亡くなった時、俺は落ち込んだ。俺はあの時19歳で、小さい頃から女手一つで俺を育ててくれたお前のばあさんに、やっと楽をさせてやれると思った矢先に、ばあさんはあの世に行ってしまったんだ。
そんな時、お前の母さんに出会った。
当時、俺は悩み事があると、よく山にある父さんだけのお気に入りの場所に行った。そこは花がたくさん咲いている場所で、父さんはそこで考え事をするのが好きだった。ある日、いつもの様にそのお気に入りの場所に行くと、花を見ている母さんがいたんだ。
母さんはな、それはそれは綺麗で、父さんはすぐ夢中になった。父さん、勇気を振り絞って母さんに告白したんだ。母さんは、笑ってうなずいてくれたよ。(そう言って源九郎は照れたように頭を掻いた)
母さんと付き合うようになってしばらくして、父さんと母さんに関する嫌な噂が村に流れた。もちろん事実無根だったがな。それでも、その噂の影響は今も残っている。俺たちが村と距離をとっているのはそのせいだ。お前にも苦労をかけてすまないな(ここでキリは全然気にしてないというように首を振った)
それからまたしばらく経って、俺は母さんについて疑問を持った。仲良くなっても、母さんは父さんに自分のことは一切話してくれなかったんだ。家族や生い立ちというようなことだ。
ある日、母さんが帰る時忘れ物をした。俺は、それを持ってすぐ追いかけた。そしたら、信じられないことに、母さんの簪をくわえた狐がいたんだよ。母さんは狐だったんだ。母さんが「正体が知られたからには一緒にいられない」と言うのを俺は、必死で引きとめた。父さん、もうほとんど泣きそうだったよ。母さんがいなくなるのに耐えられなかったんだ。(キリは父の耳が赤くなっているのに気付いたが、なにも言わなかった)
そりゃあ、母さんが狐だとわかった時には驚いたけどな。でも、母さんは、父さんにとって、もうかけがえのない存在だったんだよ。もう父さんの一部になってしまっていたんだ。父さんはな、母さんが人間だから好きになったんじゃない。母さんが母さんだったから。和葉が和葉だったから好きになったんだ。お前の母さんが和葉で、他に代わりがいないのと同じように、父さんにも和葉の代わりはいなかった。だから、和葉が何者でも構わなかった。和葉が和葉でいさえいれば、他のことはどうでもよかった。
それより、俺には和葉がいなくなってしまうことの方が怖かった。お前の母さんがいなくなる苦しみは、俺の身の一部を無理やり引きちぎられるような苦しみだからな。とにかく、それくらい父さんは母さんに惚れていた。
母さんは、そんな俺の様子に呆れてほっとけないと思ったんだろうな。「どこにもいかない」と言ってくれた。
それからしばらくして俺たちはひっそりと結婚した。
俺と母さんが結婚したいきさつはそれだけだ。
読んでくださってありがとうございます。
源九郎と和葉は、大幅にエピソードを削りました。
そのうち、削った部分に手を加えて外伝として公表したいと思います。