源九郎と和葉2
「ねぇ、父さん。ハルが結婚するんだって」
「そうか」
源九郎はそう言ったきり、また黙り込んでしまう。
ハルは、娘と仲のいい友達だ。なかなか人と打ち解けないキリだが、ハルには心を開いているようだ。そのハルが結婚するという。キリは、どんなに寂しいだろう。でも、優しい娘のことだから、きっと親友を祝ってやりたいに違いない。
「お祝いは、どうするんだ?」
源九郎は、雑炊をかき込み、ぼそっと聞いた。家計に余裕はないが、キリの親友が嫁入りするのだから、娘がその気なら自分にできる範囲で何でもしてやるつもりだ。
「父さん。そのことだけど、母さんの形見の簪をハルにあげたいと思うの。いいかな?」
源九郎は、ちょっと目を見開いたが、すぐに答えた。
「いいも何も。あれは、母さんがお前にくれたものだ。どうするかは、お前の好きにしろ」
「でも、父さん。あの簪は、母さんの思い出の品だよ。本当にいいの?」
源九郎は、なおも躊躇う娘に優しく言った。
「いいんだ。そのほうがきっと母さんも喜ぶ。簪がなくても母さんのことは思い出せる」
キリは、父親をじっと見つめた後、その言葉に嘘がないと分かって、ちょっとうつむいて目元をぬぐってから、ありがとうと言った。