第二十七話 「長期休暇」の妥当性を、労働力の再生産とサンクコストで正当化する男
すみません、来週からしばらく休みます。
この忙しい時期に正気か?
ええ、極めて正気です。
むしろ、このまま働き続けることの方が狂気だと思いませんか。
私は機械ではありません。
責任感がない?
なるほど。
あなたの定義する「責任感」とは、個人の心身を犠牲にしてまで組織の不備を埋め合わせることですか。
私にとっての責任感とは、契約に基づいた労働力を、常に最高品質で提供し続けることです。
戻ってきた時に席があると思うな?
おや、それは「不利益な取り扱い」の示唆ですか?
育児や介護に限らず、労働者の権利としての休暇取得を理由に解雇や降格をちらつかせるのは、コンプライアンスの観点から見て、いささか危険な発言ですよ。
このやり取りも、念のため「透明性」を確保するために記録させていただいています。
あ、そんなに机を叩かないでください。
備品の耐用年数が短くなりますよ。
では、しばらくの間、自分自身のケアに専念させていただきます。
なお、休暇明けに出社したところ、会社は跡形もなく倒産しており、
男は即座に「未払賃金立替払制度」の手続きを淡々と進めることになる模様。
本作を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
感情やマナーという曖昧な言葉に抗い、定義と数字で戦ってきた彼の物語はここで一旦幕を閉じます。
皆様の日常にも、もし理不尽な上司や「お気持ち」の強要が現れた際は、
彼の屁理屈を少しだけ思い出していただければ幸いです。




