牧場公園での乳搾り体験
ノースフィア牧場公園に到着したエーデルリーベ学院の生徒たちは、教師たちの先導の下で、まず牛の乳搾り体験へと向かった。
広々とした牛舎の中には、穏やかな目の乳牛たちが並んでいる。
初めて間近で見る牛の大きさに生徒たちは歓声を上げたり、少し怖がったりなど様々な反応を見せた。
優斗のグループは、一頭の大きなホルスタイン牛の前に立った。
牧場公園のスタッフが、乳搾りのデモンストレーションを見せてくれる。
「優斗くんにサヤ、やってみる?」
アリスが、優斗と彩也香に尋ねた。
二人は、顔を見合わせて頷いた。
「うん! 任せて!」
「ああ、やってみるよ。 久しぶりに」
彩也香が、元気よく返事をした。
優斗も、少し緊張しながらも牛の乳房へと手を伸ばす。
(懐かしいな、この感触……。 昔の親戚の牧場を思い出す)
優斗と彩也香は、祖父母が生きていた頃に、日の国で乳搾りの手伝いをしていた経験があった。
実家は農家ではなかったが、親戚の牧場へよく遊びに行き、そこで手伝いをしていたのだ。
あの頃は、牛の大きさに怯えながらも、祖父母に教えてもらいながら必死で乳を搾った。
優斗が牛の乳房を優しく掴み、指を一本ずつ丁寧に握り込んでいくと、白い乳が勢いよくバケツに注がれた。
リズミカルな音と共に、みるみるうちにバケツの底に乳が溜まっていく。
「わぁ! にーさま、すごいのです!」
「身体が覚えてるって事だね、兄さん。 ボクも始めるかな」
リリアが、優斗の手際の良さに目を輝かせた。
彩也香も優斗に負けじと隣の牛の乳を搾り始めた。
彼女もまた、優斗と同じように祖父母の牧場で乳搾りの経験があったのだ。
彩也香の手からも淀みなく乳が流れ落ちていく。
その手際の良さに、公園スタッフも目を見張った。
「お二人とも、お見事ですね! まるでプロのようです!」
スタッフが感嘆の声を上げると、優斗は照れくさそうに笑った。
「いえ……。 実は昔、祖父母の家で手伝っていたので……」
彩也香も、少し得意げな顔で頷いた。
「そうなんです。 兄さんもボクも、小さい頃からやってたんですよ」
リリアは、優斗の器用さに感動したように優斗の腕に抱きついた。
「にーさま、すごいのです! わたしにも教えてほしいのです!」
リリアの純粋な瞳に、優斗は微笑んだ。
「もちろん。ほら、ここに手を置いて……。 そう、優しくね。それから、指を一本ずつこうやって握り込んでいくんだ」
優斗は、リリアの小さな手を自分の手で包み込み、ゆっくりと乳搾りの仕方をレクチャーした。
リリアは、優斗の言葉に真剣な表情で耳を傾け、その通りに手を動かした。
最初はうまくいかず、ミルクがポタポタと落ちるだけだったが、優斗の優しい指導のおかげで少しずつ、しかし確実にミルクがバケツに落ちるようになった。
「わあ、出たのです! にーさま、わたしできたのです!」
リリアは、歓声を上げて喜んだ。
その無邪気な笑顔が、優斗の心を温かく満たした。
一方でアリスも、彩也香に教えてもらいながら乳搾りに挑戦していた。
「ううぅ、な、なかなかうまくいかないわ……。指の動かし方が難しいのね」
アリスは、少し困ったように眉を下げた。
彩也香は、そんなアリスの手を取りながら丁寧に指導する。
「アリスも、大丈夫だよ。 ほら、こうやって優しく包み込むように……。そうそう、上手! その調子だよ!」
彩也香の明るい声と的確なアドバイスに、アリスも少しずつコツを掴んでいった。
やがて、アリスの手からも、細く白い乳がバケツへと注がれるようになった。
「あら、本当にできたわ! ありがとう、サヤ」
アリスは、嬉しそうに彩也香に微笑んだ。
(彩也香もアリスにちゃんと教えているし、この世界でいい妹を持ったなぁ。 前世では家族にすら恵まれなかった反動なのかも知れないな)
そんな二人の様子を見た優斗は、心の中でそう呟いた。
日の国での苦しい経験を乗り越え、このレストラント連邦国で新たな生活を始めた優斗、そして家族として兄を支える彩也香。
優斗の過去の経験と前世の忌まわしき記憶は、徐々に消えつつある。
乳搾りの体験は、彼らにとってなる校外学習の一環に留まらない、心の温まるひとときとなっていた。
現在は不定期更新となっています。
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