休日の一時と呆れるニュース
エーデルリーベ学院に入学して初めての休日。
ニューレスト第四地区に構える天野家のリビングは、穏やかな午後の光に満ちていた。
昼食を終えたばかりの優斗は、満ち足りた表情でソファにもたれかかっていた。
今日の昼食も、リリアの手料理だった。
12歳とは思えないほど繊細で、それでいて温かい味わいの料理の数々に、優斗は何度舌鼓を打ったか分からない。
「にーさま、どうでしたか? 美味しかったのですか?」
優斗の膝の上にちょこんと座ったリリアが、キラキラとした瞳で優斗を見上げてきた。
リリアの温もりが、優斗の身体に伝わってくるからか、優斗は彼女を優しく抱きしめていた。
「ああ。 リリアの料理はいつも最高だよ。お腹も心も、いっぱいいっぱいだ」
その優斗が優しく微笑むと、リリアは嬉しそうに身をよじった。
そして、次の瞬間、リリアは優斗の頬に、ちゅっと音を立ててキスをした。
「えへへ♪ わたし、にーさまが喜んでくれるのが一番嬉しいのです!」
「やれやれ、リリアも大胆になってきたなぁ」
リリアの純粋でまっすぐな愛情表現に、優斗の頬はほんのり赤くなった。
日の国では、こんな風に誰かに甘えられることなど、想像もできなかったからだ。
そこで受けた仕打ちで、傷を負っていた優斗の心は、リリアの純粋かつ温かいスキンシップによって、深く深く癒されていくのを感じていた。
彼女の存在そのものが、今の優斗にとって欠かすことの出来ない安らぎとなっていた。
その一方で、リビングの隅のソファでは、彩也香とアリスがそれぞれスマートフォンを手に、深刻な面持ちで画面を覗き込んでいた。
二人の間には、またもや重い溜息が何度も漏れる。
「はぁ……。 日の国、またひどくなってるよ……」
彩也香が、深く息をつきながら呟いた。
彼女のスマホ画面には、日の国の現状を報じるニュースが表示されている。
「ええ。リコリスグループが撤退した影響が、ここまで深刻化するとはね……」
アリスもまた、眉間に皺を寄せながら、自分のスマホ画面を見つめていた。
ニュース記事は、日の国の通信インフラと交通網の壊滅的な状況を記事として書かれていたのだ。
日の国政府肝いりの国家通信規格を利用しているというものの、その通信品質はリコリスグループが提供していた高規格通信とは比べ物にならず、ほとんど機能不全に陥っていること。
そして、鉄道も規格の古い気動車に差し替えられ、運行を再開したはいいものの、線路によっては【必殺徐行】が発生し、所要時間が倍になっていること。
それなのに、日の国の政府はそれ以上の対策を一切講じようとしないことが、ニュースでは繰り返し報じられていた。
「相変わらず、『イケメンさえいれば大丈夫』って思ってるんだろうね、あの人たち」
彩也香は、呆れたように首を振った。
日の国の政府は、首相も閣僚も全員がイケメン至上主義に深く染まった女性たちで占められている。
彼女たちは、国のインフラが崩壊し、国民の生活が脅かされていても、その狂った価値観を改める気配すら見せない。
「本当に呆れてしまうわ。これでは、国民がまともに生活できないでしょうに」
「むしろ、自分達以外の国民を殺そうとしてるまであるよ。 佑くんの双子の弟さんや別の修学旅行でのアナフィラキシーで死んだ子とかあったから」
「あの政府ならありえそうで怖いわ……」
アリスもまた、深く溜息をついた。
彼女の瞳には、日の国の未来を憂う気持ちが宿っていた。
この平和なレストラント連邦国で、優斗たちはようやく安息の地を見つけるきっかけとなった。
一方で日の国は、自らの愚かさによって、奈落の底へと落ちていこうとしていた。
それは、あまりのも酷い落差だった。
「にーさま?」
「いや、ちょっとアリスと彩也香の様子がね。 多分、あのニュースの事だろうね。 でも、もう大丈夫だよ」
優斗は、リリアを優しく抱きしめながら、スマホのニュースに顔を歪める彩也香とアリスの姿を見ていた。
日の国の現状は、彼にとっても他人事ではなかった。
しかし、今はこの温かい場所で自分を癒し、そして支えてくれる家族と友人がいる。
それが、今の優斗の心を強く支えていた。
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