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ボクっ娘の妹は、味方でした

本日2回目の投稿です。

彩也香(さやか)……?」


 病室のドアから顔を出してきた少女に対し、優斗は少女の名前を告げた。

 

(そうだ。 この世界での僕も家族がいたんだった……)


 そう。

 この少女の名前は、天野(あまの) 彩也香(さやか)

 この世界での優斗の実の妹である。


「兄さん、起きても大丈夫?」


「ああ、大丈夫……うぐっ!!」


「ほら、無理して起きちゃダメ。 ボクが起こすから」


 無理やり起こそうとした優斗の全身に痛みが走る。

 彩也香が慌てて止め、優斗の上半身をゆっくり起こす。

 茶色いミディアムロングの髪が、優斗の顔に触れそうになるが、痛みでそれどころじゃないだろう。


「医者が言ってたけど、兄さんの状態は、全身打撲に幾つかの切り傷があったよ。 骨折しなかったのは不幸中の幸いかも」


「そうか……」


 彩也香から聞かされた優斗の診断結果。

 全身打撲と切り傷。

 幸い骨折はせずに、命も別状はなかったが、優斗の心の傷はより深くえぐられた。


「まったく、日の国の女たちはどうかしてるよ! イケメンじゃないからって、兄さんをこんな目に遭わせるなんて、ボクは許せないよ!」


 心を抉られ、俯く優斗に彩也香は今の日の国の女に対する不快感を口にした。

 彼女は、女性でありながら、この狂った思想の日の国においても、常に優斗の味方なのだ。

 ボクっ娘の彼女は、いつも『ボクは兄さんの味方だよ』と力強く言ってくれる。


 そんな彼女の瞳には、日の国の『イケメン至上主義』への明確な怒りが宿っていた。

 この世界でも優斗は不細工ではなく、ごく普通の男子。

 しかし、イケメン至上主義の女にとっては、そんな優斗も排除対象であるのだ。

 彩也香は、そんな兄が受ける不当な扱いに、常に心を痛めていたのだ。


「仕方ないさ。この国じゃ、僕みたいなイケメンじゃない男ってのは、生きてる価値もないってことなんだろうな」


(そう。 前世でもそうだったように……)


 優斗は自嘲気味に呟いた。

 前世で受けた仕打ちの記憶を抱えてしまっている為に、優斗は再び俯いた。

 この世界でも、結局自分は価値のない存在なのか。


『あんたのようなブサメン、産まなきゃよかった!!』


『ブサメンは死んで! ほら、さっさと!!』


 前世での家族や世間から浴びせられた言葉が突如フラッシュバックしてしまい、優斗の心はじわじわと蝕んでいく。

 しかし……。


「そんなことないよ!」


 彩也香は、優斗の言葉を遮るように叫んだ。

 彼女の眼には、涙が浮かんでいた。


「兄さんは、ボクの大事な兄さんだよ! 顔なんて関係ないんだ! 優しい兄さんが、ボクは一番大好きなんだからね!」


「彩也香……」


 彩也香の真っ直ぐな言葉が、優斗の胸に温かく響いた。

 前世では誰も言ってくれなかった言葉が、今、目の前の妹が言ってくれたのだ。

 

 前世と違う所は、目の前にいる彩也香のように、味方になってくれる人がいると言う事だ。


「ありがとう……」


 不意に優斗の目にも涙を浮かべ、彩也香に礼を言う。

 彩也香はそんな優斗を何も言わずに優しく抱きしめ、優斗の涙を受け入れていた。


「えっと……、お邪魔だったかしら?」


「「母さん!?」」


 そんな雰囲気の二人に茶々を入れるかのように現れた女性。

 二人の発言からして、その女性はどうやら母親のようだ。


「優斗、彩也香。 ようやく準備が出来たわ。 明日辺りに海外に引っ越すわよ」


 そして、その母親は二人にそう告げた。

 海外に引っ越す。


 優斗にとって、それがこの世界の人生の分岐点である事は、この時は知らなかった。



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