醜い、美しい
着慣れた部屋着で外に飛び出したあたしは、ポケットの中からスマホを取り出した。
あかりちゃんにかけるつもりだったのに、点灯待ちをしている液晶画面には、泣きはらしてみじめなあたしの顔が映っていた。
「変な顔」
本当のお母さんに、せめて顔だけでも似ていたらよかったのに。
あかりちゃんがあたしとともだちになってくれたのは、もしかしたらあたしがみじめに見えたからかもしれない、なんて。
そんないやしい妄想がふっ、と頭に浮かんで消えた。
「ひどい思考」
昨日、あかりちゃんは三週間ぶりに学校を休んだ。
体調が悪くて入院したと聞いたけど、大丈夫なのかな?
持ってきたのはスマホだけだから、お見舞いの花さえ買えないけど、ちゃんと会ってくれるかな?
病院……嫌いなんだよな。
青ざめてやつれた顔のお母さんを思い出す。それでも必死になってあたしに笑いかけてくれてた。
病気の人って、そうなのかな?
嫌だ、嫌だ。なんか自分が気持ち悪くなってきた。
空を見た。日曜日の昼下がり。雲はあまりなくて、きれいなみずいろをしている。
そのあまりにも繊細な色彩を見ているうちに、ミルクティを飲みたくなってきた。
「買えるかな?」
先週から持たされたスマホだから、スマホ決済もできるんだって。
こんなのひとつで、ミルクティふたつ買えたら、コンビニのお菓子でもよろこんでくれるかな?
目の先にはコンビニがある。とにかく、使ってみよう。
コンビニのチャイムって、好き。お客様なんだなって自覚が持てるから。
え〜と、ミルクティ、ミルクティ。
あ、あったっ。
パッて。別の角度から男の子の手があらわれた。
「あ、ごめん」
「あ、佐々木 ともやくんだ」
「え?」
「あ?」
だって、写真とおなじ男の子が目の前にいるから。
「もしかして、あかりのともだち? えっと、ちかちゃんって人?」
やっぱりそうだ。
「そう。川内 ちかこ。ともくんも、お見舞い?」
「ああ。あいつ、前より悪くなってないといいんだけど」
だからわかっちゃうんだ。ともくんもあかりちゃんのことが好きで、彼女が今、どんな状態なのかを。
「そんなに、よくないの? あかりちゃん」
「よくないって言うか。あいつの場合はよくなることがないから」
「……それでミルクティの差し入れか。じゃあ、この支払いはあたしがするよ。いっしょに病院行こう? っていうか、行ってくれない? 病院って苦手なんだよね」
家で散々泣いてきたのに、軽口きいてなければ泣きそうだった。
「え? じゃあミルクティだけたのむ。おれ、食い物も買うから」
そっか。病気だけど、ともくんも男の子だもんね。食欲があるうちは、大丈夫だよね。
ミルクティ、よろこんでくれるといいな。
つづく