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涙、約束

 それでもね、とあかりちゃんは泣きながら言葉をつなげる。


「あたしにもしものことがあったとして。ともくんきっと悲しむと思うの。多分そこで時をとめてしまうような気がする」


 時をとめる、という言葉の意味はよくわからなかったけど。


 それでもこれが、あかりちゃんからのお願いだということだけは伝わってきた。


「もし、ともくんが時をとめたままだったらその時は。その時は、ちかちゃんがともくんの時間を動かしてあげて欲しいの。……だめ、かなぁ?」


 あたしの顔も、涙でぐちゃぐちゃだった。


 つまりはそれほど、あかりちゃんの状態が悪いってことになる。


「……いいよ。どんな子? 写真ある?」


 うんって、泣き笑いしたあかりちゃんが、ランドセルの中から一枚の写真を抜き出した。


 華奢なあかりちゃんと、背の高い知らない男の子が写っているその写真は病院の中庭に見える。


 男の子はふてくされているのに、あかりちゃんは腕を組んでダブルピースで笑っている。


「ぷはっ。こわい顔。ともくんって、いつもこんななの?」

「うん。だから、笑わせてあげなきゃ笑わないの。自分の病気のせいで両親が離婚したんだって、思いこんでいるから」


 両親の離婚、かぁ。


 けどそれは、ともくんだけの問題じゃないとしても、莫大なお金がかかるとしたら、やっぱり自分のせいだと思ってもしかたがないのかもしれない。


「あれ? じゃあ、もしかして?」


 考えたくはなかったけど、もしかしてあかりちゃんがあたしとともだちになりたかったのって、ともくんと似た境遇だからなの?


「ううん、誤解だよ。あたしはちかちゃんとともだちになりたかっただけ。ただ、途中でともくんとどこか似てるのかなって思って、偶然にも家庭環境が似ていたっていう」


 今でもあたらしいお母さんに悪意なく聞かれることがある。


 もし、本当のお母さんが生きていたら会いたい? って。


 そりゃ会いたいに決まってる。だけど、それは無理な願いだから。


 ともくんは父親に引き取られたけど、母親はどんな人なのかな?


 だけど、あたしとともくんはとても幸運だ。だって、あかりちゃんに出会うことができたんだから。


「だから約束、ね?」


 あかりちゃんの右手の小指が差し出される。


 あたしの右手の小指で結びつける。


「うん、わかった。でも、あかりちゃんがいなくなったら、あたしきっともっとやさぐれるよ? それでもいいの?」

「うん、いい。どんなに時間がかかっても、きっとあかりちゃんならともくんのことを笑わせることができる。それが、時間を動かすってことだから」

「……うん、わかった」


 そう言って約束したのに。


 それからしばらくして、あたらしいお母さんの妊娠がわかったことにより、大切な約束のことをすっかりわすれてしまうことになってしまった。


     つづく



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