大切、秘密
それからあかりちゃんは、大切な秘密をふたつ打ち明けてくれた。
「あたしね、先天性の心臓病なの。だから、時々発作が起きて入院しなくちゃいけないんだ」
本当は学校に行かなくてもいいんだって、両親にもお医者様にも言われてるんだ。二十歳まで生きられないかもしれないからって。
そこまでかなしい現実と闘っているのに、あかりちゃんは誰にもかなしい顔を見せずにいるんだ。
あたしだったらやっぱりもっとやさぐれちゃうのにな。
「だから、好きな人ができたけど、あきらめなくちゃって思っていたんだけど。やっぱり好きなの」
初恋なんだ。なんて、かわいらしく泣き笑いして。
あたしたちの年齢なら、恋をするのは普通のこと。
だけどあかりちゃんは、それすらあきらめようとしていたということか。
「おなじ病気の男の子でね。佐々木 ともやくんって名前なんだ」
佐々木 ともやくんかぁ。残念ながら、学校は別みたいだけど。
かっこいいんだろうな、その男の子。
なにしろあかりちゃんが好きになるくらいだからな。
「あたしとちがって、ともやくんの方が心臓移植で普通の生活ができるようになるんだって」
「あかりちゃんは? 移植してもよくならないの?」
「うん。……ほかの臓器もね、薬の副作用でぼろぼろになっちゃってるんだ。それに、移植しても拒絶反応が出やすいんだって、あたしの場合は。だから、ね? あたしにもしものことがあったら――」
「もういいからっ!!」
あたしはテーブルを乗り越えて、泣きじゃくるあかりちゃんの手を両手で包み込んだ。
氷のように冷たいあかりちゃんの手は気持ちいいけど、血行不良なんだとわかると、とてもかなしい気持ちになる。
「ごめんね、全部話させちゃって。でもこれからはグチでもなんでも、あたしが聞くから。ね?」
「……うん。ありがとう」
あたしよりも小さい体は、あたしよりもずっと懸命に闘っていたんだ。
それなのにあたしは、あたらしいお母さんとうまく話せないとか、そんなことくらいでやさぐれて。
かっこ悪いよねって、気づいたらあかりちゃんに話してた。
「そんなことないよ。ちかちゃんはいつも、かっこいいよ」
だから、どっちがはげましているのかまったくわからない状況だったけど。
喫茶店のほかのお客さんから注意を受けることはなかった。
店内に流れるエリック・サティのジムノペディの音量が、ほんのわずかに大きくなっただけだった。
つづく