表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/62

ドアベル、カラカラ

 その喫茶店は、古い時代のドラマとかで見るような、カランカランって音のするドアだった。かわいい音に、少しだけ緊張がほぐれる。


「いらっしゃいませ。ご注文が決まりましたらお呼びください」


 メニューもとてもシンプル。


 コーヒーも紅茶もケーキやジュース類までが安くてリーズナブル。


 それでも味に妥協してなさそうなのは、客層を見てわかった。


 この喫茶店ではみんなしあわせそうな顔をしているから。


「あたし、クリームあんみつとレモンティにしよ。ちかちゃんは決まった?」

「あのさぁ、あたしこういうお店はじめてで。なにをたのめばいいのかわからないんだ」

「じゃあ、おなじのにする? ここの抹茶パフェもおいしいんだけど、量が多くてあたしはたのめないんだ」

「あ。なら、はんぶんこする?」


 ともだちができたらやってみたかったことのひとつ。それがはんぶんこ。


 教室でよく、ほかの女の子たちがお菓子をシェアしている姿を見て、うらやましいって思っていたんだ。


 だから、勇気を出した。


「うん。ちかちゃんやさしいから好き。いつも食べ切れなくて残していたから、これで安心。料金もはんぶんこしようね?」

「うん。そうしよう。じゃあ、あとは紅茶にしようかな?」

「うん、いいと思うよ」


 あかりちゃんはすぐに老齢のウェイターさんに呼びかけた。


 そして、あこがれの抹茶パフェ。


「「ん〜、おいひ〜」」


 ふたりでおなじことを言って、笑った。


 笑ったら、胸の奥のもやもやした気分がどこかに吹き飛んだような気がした。


「あのね。あたし、ちかちゃんには病気のこと言えなかったの」


 少しして、あかりちゃんがいつもより声のトーンをおとして話しはじめた。


「心臓病だなんて言ったら、遊んでくれなくなっちゃうんだろうなって思ったから」

「……どうして?」

「だって――」


 あかりちゃんの目からぽろぽろと涙がこぼれる。


「こわれものだから、近づかない方がいいって思うでしょう? ちかちゃんも、あたしに気をつかうでしょう? だから、言えなかったの」


 直球ど真ん中の言葉があたしの心臓に響いた。


 あかりちゃんの前でウソはつけない。


「正直言うとね。最初は、そんな風に感じたんだ。病気のこと、なんで話してくれないんだろう、みずくさいなって。だけど、もしあたしがあかりちゃんの立場だったらって、考えたの。そうしたらやっぱり言わないんじゃないかなって」


 だから、ごめんね。せめるつもりはなかったんだってつづけたら、あかりちゃんも、ごめんねって、あやまってくれた。


    つづく


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ