ドアベル、カラカラ
その喫茶店は、古い時代のドラマとかで見るような、カランカランって音のするドアだった。かわいい音に、少しだけ緊張がほぐれる。
「いらっしゃいませ。ご注文が決まりましたらお呼びください」
メニューもとてもシンプル。
コーヒーも紅茶もケーキやジュース類までが安くてリーズナブル。
それでも味に妥協してなさそうなのは、客層を見てわかった。
この喫茶店ではみんなしあわせそうな顔をしているから。
「あたし、クリームあんみつとレモンティにしよ。ちかちゃんは決まった?」
「あのさぁ、あたしこういうお店はじめてで。なにをたのめばいいのかわからないんだ」
「じゃあ、おなじのにする? ここの抹茶パフェもおいしいんだけど、量が多くてあたしはたのめないんだ」
「あ。なら、はんぶんこする?」
ともだちができたらやってみたかったことのひとつ。それがはんぶんこ。
教室でよく、ほかの女の子たちがお菓子をシェアしている姿を見て、うらやましいって思っていたんだ。
だから、勇気を出した。
「うん。ちかちゃんやさしいから好き。いつも食べ切れなくて残していたから、これで安心。料金もはんぶんこしようね?」
「うん。そうしよう。じゃあ、あとは紅茶にしようかな?」
「うん、いいと思うよ」
あかりちゃんはすぐに老齢のウェイターさんに呼びかけた。
そして、あこがれの抹茶パフェ。
「「ん〜、おいひ〜」」
ふたりでおなじことを言って、笑った。
笑ったら、胸の奥のもやもやした気分がどこかに吹き飛んだような気がした。
「あのね。あたし、ちかちゃんには病気のこと言えなかったの」
少しして、あかりちゃんがいつもより声のトーンをおとして話しはじめた。
「心臓病だなんて言ったら、遊んでくれなくなっちゃうんだろうなって思ったから」
「……どうして?」
「だって――」
あかりちゃんの目からぽろぽろと涙がこぼれる。
「こわれものだから、近づかない方がいいって思うでしょう? ちかちゃんも、あたしに気をつかうでしょう? だから、言えなかったの」
直球ど真ん中の言葉があたしの心臓に響いた。
あかりちゃんの前でウソはつけない。
「正直言うとね。最初は、そんな風に感じたんだ。病気のこと、なんで話してくれないんだろう、みずくさいなって。だけど、もしあたしがあかりちゃんの立場だったらって、考えたの。そうしたらやっぱり言わないんじゃないかなって」
だから、ごめんね。せめるつもりはなかったんだってつづけたら、あかりちゃんも、ごめんねって、あやまってくれた。
つづく