秘密、本音
どうやらあたしの様子がおかしいことに、あかりちゃんは気づいていた。
まったく。
他人に敏感で、自分に対して鈍感なのってどうなのよ?
病気のことを隠していたからって怒っているわけじゃない。
混乱しているんだ。
だって、もしあたしがあかりちゃんの立場だったらどうなってる?
今でさえやさぐれてるのに、これ以上やさぐれなきゃいけないの?
治らない病気って、そういうことでしょう?
なのに、あかりちゃんは平気なフリして。
どうしてなんだろう?
授業がおわると、あたしはあかりちゃんの手をつかんだ。
指先までひんやりと冷たい感じがした。
「あかりちゃん、今日これからヒマ?」
「うん、いいけど。どうしたの?」
それからそうっとあたしの耳に唇をちかづけて、もしかして恋の相談? なんて言ってきた。
ばかやろう、なんて乱暴な言葉が自分の口から飛び出しそうになって、あわてて口をつぐんだ。
「ちがうよ」
「そっか。じゃああたしの秘密、バレちゃったんだね?」
あまりにもけろっと言うものだから、うなずくことしかできなかった。
「なら、喫茶店よろうよ。おいしいあんみつ屋さんがあるの」
まただ。
どうしてこう、あかりちゃんはあたしのテンポを外してしまうのだろう?
これじゃああたしが重大な秘密を告白するみたいだ。
あたしたちはまだ小学生。六年生になろうとしている。
女性として、嫌なルーティンも加わって、あたしたちは大人へと向かって歩かなければならない。
それには、面倒くさいルールばかりでうんざりで。
だからこそ、なんでも話せる母親が必要だし、親友が必要になる。
それなのにどうして、あかりちゃんは命にかかわる重大事を話してくれなかったんだろう。
あたしって、そんなに信用できないのかな?
なんとなくぼんやりとふたり、ならんで歩く。どこまで行くのか、いくらのあんみつなのかもわからない。
ただ、これからはきっと、あかりちゃんのことをこわれもののように扱ってしまうような予感しかなかった。
だって心臓病って、そういうことでしょう?
「ここだよ。安くておいしいの。コーヒーも紅茶も、なんでもあるの」
そこは、少しさびれた喫茶店だった。
つづく