思いやり、思わせぶり
あかりちゃんにはじめて名前を呼んでもらったのは、その後すぐだった。
「じゃあ、ちかちゃんって呼んでもいい?」
背の高いあたしにちゃん付けなんて、気恥ずかしい気持ちがしたけど、ともだちってそういうものなのかなって、妙に納得できた。
だから迷わず、いいよって答えたんだ。
ともだちになったら、現実的ない話をしたり、お互いの家に遊びに行ったりするのが普通だと思っていたけど、あかりちゃんとはあまりそういうことはなかった。
その代わり、あかりちゃんはいつも、誰かを笑わせようとたくらんでくる。
泣いている赤ちゃんから、困っているお年寄り。おなじクラスで仲間はずれにされてる女の子。
あかりちゃんって、手品師? って思うほど色々なことを思いつくなって思う。
だって、普通に生きていたら、放っておくような人たちなのに。
特にそう、仲間はずれにされてる女の子にやさしくしたりすれば、今度は自分が仲間はずれにされちゃうっていうのに、そんなことはおかまいなし。
だけどなぜか、クラスのみんなはあかりちゃんのことをはじめから居ない人みたいに扱っていた。
一回だけ、彼女たちの話をトイレで聞いたことがある。
「あの子ってさぁ、妙に顔色悪いじゃん? 先天性の心臓病なんだって。だからあんまりかかわらないようにしてるんだ」
「わかるぅ〜。なんか、変なことしたら死神があたしに取り憑くんじゃないかって、心配になるもん」
心臓病?
死神?
なにそれ?
どうしてあかりちゃんはあたしに、その話をしないのだろう?
だって、ともだちになろうって言ったのは、あかりちゃんの方なんだよ?
そんなの、知っていたら――?
最初から知っていたら、あたしはどうしていたの?
先天性の心臓病って、治らないの?
それなのにどうして、あかりちゃんは赤の他人を笑わせようと必死なの?
あたしにはわからないことばかりで、どうすればいいのかこころの奥がもやもやしてきた。
だから、次の授業中にあかりちゃんに手紙を書いた。
ノートを破っただけの、色気のない手紙を。
だけど、どこからどう書けばいいのかわからなくて。
だって、心臓病ってなに?
痛いの?
つらいの?
あたしにはわからないことだから、黙っていたの?
そんなの、やっぱりみずくさいよ。
だから、えんぴつで何回も書いては消して、また書いて。
結局、ノートは汚くなっちゃったし、破れてしまったしで、放課後あかりちゃんに話を聞くことに決めた。
そう、こういうことは面と向かって話さなくちゃいけないんだ。
つづく