夢、あるいは幻覚
大親友のあかりがこの世界から消えてから十年が過ぎた。
妹のあかりも十歳になり、生意気にも小説投稿サイトを利用するようになった。
今では姉妹でファンタジー小説が好きなことで有名になった。
あかりの両親も、面白そうな作品を見つけると買ってきてくれたりして、今でも交流がつづいている。
ともやからの連絡はない。あんなやつ、きっとどこかでうじうじと暮らしているにちがいない。
自分だけ生き残って、とか言っていたら、本気で殴ってやるんだから。
だけどこうも消息がつかめないと、さすがに心配にもなってくる。
一度だけ、ともやのお父さんと思われる人がネットで叩かれているのを知った。
偽善者とか、他人に死んでもらって子供に心臓をあたえたとか、義援金泥棒とか。そんなくだらない罵詈雑言の数々。
それを書いた人たちは、どんな気分だったのかなって思うんだ。
たとえば、どこか具合が悪いから、八つ当たりをして発散しているとか。あるいは生活にいきづまっているから悔しくて書いたとか。
だけど、どれもこれもがそうとはかぎらないし、それを見たともやが正常でいられるかどうかわからない。
あいつ、がさつそうに見えても繊細なところがあるからな。
だからこその、あかりの心配だし、あたしも心配したわけだけど。
人間が人間を叩くってことは、おそろしい。知らない他人の事情をすべて知ることなんてできないし、知ったから協力するかと聞かれたら、それもまたできない。
だったら放置することしかできないけど、せめてもう少しやさしい気持ちで相手にできないものかなって個人的に思ったりもした。
こんな時、あかりがいたらなんて言うかな?
それとも彼女は、そんな悪口に耳を貸さないかもしれない。
他人の笑顔が大好きな子だったから。
十年経って、あたしは少しずつ今の自分を認められるようになってきた。
それによって、わずかだけど自分を好きになりつつある。自分本位まではいかにいけど、他人の気持ちより自分がどうしたいのかを考えられるようにはなれた。
つまり、多少こころがけがれたわけだけど、しかたないよね。
「お姉ちゃん、たいへん」
のんきに洗濯していると、妹のあかりがあたしの前に自分のスマートフォンを突き出してきた。
「川内 あかりが小説投稿サイトでエッセイ書いてる」
つづく