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日記、内容

 あたしが彼女からあずかった日記を開くことができたのはそれから一週間後。年の離れた妹が生まれてからだった。


 お母さんは妹にあかりという名前をつけた。


 あたしは妹に一生やさしくすることをこころに誓った。


 地味な普通の大学ノートには、あかりの几帳面な字が躍っている。時に楽しげに、時に激しく。


 文字だけでここまで感情表現できることをあらためて知った。


[今日は、川内 ちかこさんという綺麗な同級生と目が合った。その時、気がついちゃったんだ。ああこの子も、あたしとおなじで自分のことが嫌いなんだなって。絶望的な、そんな目をしているから、この子が自分を好きになれたらいいなって、思ったんだ。そうしたらあたしも浮かばれるかな?]


[今日は勇気を出して川内さんとお話をすることができた。ちかちゃんと呼べるようになった。うれしい。これからたくさん遊ぼうね]


[大人って残酷。ともくんには生きて欲しいけど、あたしとの間を引き裂くようなことを言わなくてもいいのにな。でも、しょうがないのかな]


[ちかちゃんって、もしかしてともくんのことを好きになってくれるかもしれない。そうしたらきっと、ともくんも元気になるよね? だってあたしは、みんなを置き去りにして先に三途の川を渡ることになっちゃうから。ごめんね]


[希望って、なんだろう? ともくんとはおわかれするこころの準備はできていたけど、本人の口からウソの理由を聞きたくなかったな。強がったけど、泣いちゃった。バレたかな?]


[一時退院でパーティーを開いてくれたけど、あんまり気分がよくなくて、みんなにわるいことしちゃった。さようなら、ともくん]


[ちかこって名前呼びできたのに、こころが浮かない。くるしいよ]


[あたしは卑怯だ。この日記をちかこにたくすことにした。ちかこ、どうか誰も恨んだりしないでね。誰のことを嫌いでいても、自分のことは嫌いにならないで。あたしみたいに苦しくなってしまうから。だからたくさん笑って。それで、もしともくんと再会したらその時は、ともくんの止まってしまった時間を動かしてあげて欲しいの。あたしの無理なお願いは、わすれてくれてかまわない。ちかこ。たくさん生きてね。あなたと出会えてよかった。出会ってくれて、ありがとう。大好き]


 読み終わると、涙があふれてきた。


 ねぇ、あかり。誰もあかりのことを嫌いになんてならないよ?


 それなのにあなたは、どうして自分を嫌いになったの?


 病気が憎いな。


 誰も恨むなって書いてあるけど、病気は恨んでもいいよね?


 あたし、看護師になるね。顔は笑顔のままでも、こころの奥底で泣いている患者さんを笑顔にしたいんだ。だから、ね。あたしもっとたくさん本を読むことにするよ。いつかまたどこかでともやの書いた本に出会うために。


     つづく

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