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命、わすれない

 あかりの病気を知ってから、命について考えるようになった。


 これまでのあたしは、本当のお母さんを早くに亡くしたかわいそうな子供のままで居つづけた、わがままな子供だった。


 お母さんだって、好きで病気になったわけじゃないし、好きで亡くなったわけじゃない。


 だけど、そこで一度目をつぶったことにより、自分の殻に閉じこもり、誰も信じられなくなっていった。


 なによりあたらしくできたお母さんに八つ当たりをすることで、さらに自己嫌悪か増していくのに、止められなかった。


 こころの暴走。


 反抗期だとか、思春期だとか、そういった感情が一気に爆発して、それで自分だけが不幸のど真ん中に落っことされたような、そんな気がしていたのだ。


 だけどあかりはちがう。


 いつもあかるく笑っている。どんなにつらくても、泣くのを我慢してまでほほ笑もうと努力している。はたから見ると滑稽かもしれないほど、誰かの役に立ちたくて、やさしいのだ。


 幸いなことに、あたしは健康だけが取り柄で、ほかにやることはなにもなかった。


 そんなあたしに、あかりがきっかけで読書が趣味になった。


 不思議なもので、本を読み始めると、色々な方向からものを考えるクセがつくようになった。


 だから、あたらしいお母さんとも少しずつ仲良くなれてきているし、あたらしい命にやさしくしてあげたいとも思うようになってきた。


 そんな時、あかりのお母さんから電話がかかってきた。


 夏なのに、それはとても寒い朝だった。深い霧が、窓の外の視界をさえぎる中で、あかりの死を知らせてくれた。


 がっくりと膝から崩折れて、馬鹿みたいに声をあげて泣いた。


 途中でお母さんに支えられなかったら、そのまま倒れていたかもしれない。


 それくらい悔しくてたまらなかった。


 お通夜とお葬式にも参加したけど、もうあかりの笑顔に会うことができないという実感はわかなかった。


 あたしはずっと泣きつづけて、身重のお母さんに支えられていた。


 最後にお墓にたどり着いた時に、おばさんにありがとうと言ってもらって、また泣いた。


 まぶたがあがらないくらい激しく泣いた。


 家に帰って、着替えてお風呂に入ったら、あかりから日記をあずかっていたことを思い出した。


 正直に告白すると、今はまだ読むことはできない。


 だけど、どうしてもあかりに触れていたくて、大学ノートを抱きしめて、また泣いた。


     つづく

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