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日記、覚悟

 あたしの部屋は、あかりの部屋とちがってマンガ雑誌や教科書が散らばっている。


 最近では、さすがに借りてきた本をそこいら辺に置いておくのがはばかられて、きちんと机の上で読むようにはしているけど、それでも服が脱ぎ散らかしたままだったので、さすがにお母さんに手伝ってもらって、掃除をがんばったつもり。


 そんな雑多なあたしの部屋に入るなり、あかりはとてもうれしそうな歓声をあげる。


「わぁ。ちかこの匂いが充満してる。ちかこの部屋だ」


 充満というところで、芳香剤が臭かったかしら? と不安になったけれども、あかりの表情は暗くはならなかった。


「ねぇ、これ」


 あかりはリュックサックから一冊のノートを取り出した。


「うん? どうしたの?」

「これ。あたしのささやかな想いを綴った日記です」

「え? どうして?」


 日記なんて、他人に見せていいものではないことくらい、あたしにもわかっている。それなのにあかりは、そのノートをあたしの鼻先に突き出しているのだ。


「これ、あたしになにかあったら読んで欲しいの」

「ウソでしょ? 縁起でもないこと言わないで」

「ううん、読んで欲しいの。どうしてあたしが、ちかこに声をかけたのか。どうしてあたしがともくんとわかれることにしたのか。ちかこにだけは、知っていて欲しいから」


 数回の押し問答の末、渋々ノートを受け取った。


「じゃあ、一時的にあずかることにするけど。読むかどうかはわからないよ?」

「それでもいい。ちかこの未来が明るく照らされることを祈っているから」


 そんなこと言うのはやめて欲しかった。命の期限を自分で決めて欲しくないから。


「もし、孤独を感じたら、待たずに読んでね。でも今は……」


 あかりはあたしの顔をじっくりと見つめる。


「お母さんと仲良くできてよかったね」

「うん。なんか、色々と吹っ切れちゃった。あかりのおかげだよ?」

「そう? あたしでも、役に立てたのかな?」

「過去形にしない。ほっぺたつねるよ?」


 わざと楽しそうな笑い声をあげる。不自然じゃないかな?


「ちかこと出会えて、ともだちになれてよかった。あたし今、すごくしあわせだよ?」

「あたしもしあわせだよ、あかり」


 あかりはカサついた指先で、迷うようにあたしの両手を握りしめた。


 熱が高い。


「ちかこはこれから先、もっとたくさんのしあわせがあるよ。約束する」

「なら――」


 言いかけて口をつぐむ。そんなこと、本人なら気づいているだろう。けど、その先をつむぐ余裕はあたしにはなかった。


     つづく

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