友情、覚悟
結局、それからあかりが学校に来ることはなかった。
あたしはひとりの学校で、退屈な授業を受けるしかなく、放課後になるとあかりを遊びに誘うことが増えた。
例の喫茶店では、あかりと半分こしながら、ほぼすべてのメニューを制覇しようとしている。
真面目な話、あの後ともやに電話したのかどうかは聞いていない。だけぉたぶん、していないと思う。あかりがそこまで子供じゃないからと言う通り、大人が決めてしまったことをくつがえすのは容易ではない。
あたしとしては、それでもあがいて欲しかったんだけどな。本当に好きだったのだから。
そのことをあらためてあたしからともやに連絡することもなく数日が経ち、ついにあかりをうちに招待する日がやってきた。
ともだちを連れてきてもいい? という問いに、あたらしいお母さんはあら素敵。美味しそうなお菓子を買ってこなくちゃね、と返答されてたけど、腹がたつことはなく、苦笑するしかなかった。
あかりのお母さんはケーキを焼いてくれたりのご馳走だったんだよ、と言っても、おなじことをあたしに求めないでね、と笑われてしまった。
そうか、と思った。母親はみんなおなじことができると、気遣いができるものだと思いこんでいたことに気づいた。
それこそ子供のエゴイズムだ。よその母親とおなじことをリクエストしたところで、同一人物でないかぎり、そんなことできるわけがない。
そう思ったら、これまでずっとやさぐれていた気持ちが不思議なほどふっきれることができて、やさしく対応できるようになってきた。
なにしろあたしは、お姉さんになるんだもんね。事情はともあれ、これも縁。楽しいことばかりではなく、苦しいことも家族でわけあってゆけばいいだけなのだ。
そして今日、かなり奮発してお高いケーキやお菓子なんかを買ってきてくれたお母さんに、ありがとうと伝えることができた。
お母さんはぽかんとした後、あら嫌だ、恥ずかしいと言って泣いていた。
ごめんね、ずっと子供のわがままを通してしまっていて。だけどね。それでもね。あなたをお母さんと呼ぶのは勇気が必要だったのよ。
インターフォンが鳴る。
車からあかりが降りてきて、おばさんに支えてもらいながら、うちに入ってきた。
「ごめんね、母親同伴で」
「いいって。それよりぐあいよくないの? また今度にすればよかったかな?」
言ってしまってから後悔した。
あかりにとってのまたが、どんなに残酷なことかをわすれていたのだ。
「うん。でも、たのみもあったし。どうしても今日じゃなきゃって」
「うん、それでいいよ。ね、お母さん?」
あたしの声に、お母さんとおばさんが顔を見合わせて笑った。
つづく