写真、理由
だけど、どうしてあかりの部屋には写真たてがひとつもないのだろう?
不自然なほど整頓されているのは、おばさんの手柄だとしても、少なからずおなじ病と闘っているともやとの写真がないわけがない。
「あんまり見られると恥ずかしいな」
あたしの視線に気づいたあかりが困ったように眉毛をよせる。
「あ、ごめん。友達の部屋に来たのって、はじめてだから。めずらしくて、つい」
「写真とかないのって不思議でしょ? なるべく撮らないでってお願いしてるの。あたしの痕跡が残るのが嫌なの」
どこか達観しすぎるあかりの頬を、左右でつまみあげた。
「よし、わかった。これからはいっぱい写真を撮ろう。あたしたち、親友なんだからいいよね?」
親友? とおもしろい顔のままつぶやくと、あかりはまたぽろりと涙をこぼした。
「ごめん。痛かった?」
あわてて手を離すと、あたしはあかりのカサついた頬をなでた。
そして、正面から言う。
「馬鹿なこと言わないの。あかりはあたしの大親友なんだから、痕跡も爪痕もいくらでも残して欲しいの。そのための写真なんだよ?」
「……うん。うん」
ぽろぽろとこぼれ落ちる涙をハンカチでぬぐってあげる。あかりは少し、熱があるみたい。これ以上泣かせちゃダメだ。
そして、思いきってこう言う。
「今度、うちに遊びに来ない? あたらしいお母さんにあなたを紹介したいの。親友のあかりですって。あの人、どんな顔するかしら?」
ふふっと笑いあった。
「おたし、本当は写真たくさん撮りたかった。ともくんのこと、今もまだ大好きなの。好きなのにっ」
よしよしって、頭をなでてあげながら、ベッドサイドに腰かけさせる。
「彼もきっと、おなじ気持ちだよ? だからこそ、あかりを傷つけたくなかったんだよ」
うん、うんと何度もうなずいて。泣かせたらいけないのに、あかりは一生分の涙じゃないかって思うほど泣きつづけた。
「あたし、わがままだし、よくばりだから」
「それでいいんだよ。そうじゃなきゃ、意味がないよ」
そう。あかりはまだ生きている。発熱するほど好きな人とわかれなければならないなんて、こんなのはせつなすぎる。
「電話したら? 彼に」
あかりの前でともやと呼び捨てするのははばかられた。
「うん。電話する」
「じゃあ、あたしはおトイレをお借りします」
「うん。いってらっしゃい」
ドアを閉めて数秒。あかりが電話をかける気配はなかった。
つづく