いかないで、泣かないで
運命なんて知らない。
ただ必死になって毎日に食らいつくしか生きる方法がない人がいることを、今日はじめて知ってしまった。
「あかりは、なんて?」
「……いいよって。おれが選んだ相手なら、きっとステキな子なんだろうねって、無理して笑ってた」
「無理させるなよなっ!! あの子の気持ちも考えてあげなよっ」
「ちかこは、おれの気持ちを考えてくれないのに、か?」
どきりとした。
はじめて名前を呼び捨てにされたことよりも、ともやの気持ちを考えていないことを指摘されて、こわくなった。
「おれにできることは、悪者になるしかないんだ」
子供は親の言いなりになるしかない。そうとわかった上でもどうしようもなくて。
あまりにも無慈悲な現実に泣くことしかできなくて。
あたしたちは、夕日に照らされ始めたベンチの上で、赤ちゃんみたいに泣きじゃくるしかなかった。
とてもじゃないけど、ともやに行くなとは言えない。
自分の居場所さえ失いかけている分際で、ともやの決断に口出しできる分際じゃない。それがとてももどかしいし、悔しくてたまらなかった。
どうして大人は、子供の都合を考えてくれないのだろう?
どうして子供を所有物かなにかのように好きにあつかうのだろう?
お母さんが亡くなってから、ひさしぶりに声をあげて泣いた。
ともやもみっともなく泣くしかなかった。
あかりにはもう、将来がないという事実がつらくて、悲しかった。
ここまで知って、どんな顔をして彼女と会えと言うのか。
ともやがここまで話さなければ、あたしはきっと、道化のようにみっともなくパーティーを盛り上げようとしただろう。
彼らの心情を察することもなく、どうやってこれから生きていけと?
「パーティーがおわったら、アメリカに行く」
「……うん」
「あかりのこと、まかせてもいい?」
「うん」
「ずるいな、おれ。全部ちかこにまかせちまってる」
「そう、ずるい。けど、しかたがないからゆるしてあげるよ。向こうで生きてね」
「……うん」
最後に鼻をすすったともやが、右手を差し出してきた。
「出会ってくれて、ありがとう。あかりのともだちになってくれて、ありがとう」
「ともやも、ちゃんと生きなよ?」
指先までつめたくなった右手と右手が軽くふれて、握手した。
パーティーのことは、メールで決めることにした。
つづく