乗り越えられない、不文律
『あのさ、これから会って話さない?』
びっくりパーティーの話を聞くのかな?
この時はそんな風に簡単に思っていた。
心臓の病気が命にかかわると知っているつもりだったから。
だけど、現実はあまくなくて。
いつかの公園のベンチにぽつんとひとりですわっているともくんの姿は、とてもさみしそうだった。
だから、なけなしのおこずかいで、ともくんと自分用にスポーツドリンクを買った。
「おまたせ。びっくりパーティーどうしよっか? 今までびっくりパーティーとかやったことある?」
力なく首を左右に振ったともくんは、短くお礼を言って、スポーツドリンクを受け取った。
「どうかした?」
「わかれた。あかりにウソついた。ほかに好きな人ができたって」
「ちよっ!? なんでよ!? あかりはもう退院するんだよ。元気になったから退院するんでしょう? どうしてそんなウソついたのよっ!?」
あたしが男の子だったら、迷わず襟首をつかんでいただろう。たとえともやが心臓の病気であったとしても。
それなのに彼は、意外な言葉であたしに反撃してきた。
「迷わせないためなんだ。おれたちにとっての一時的な退院ってのは、つまり身辺整理をするための猶予なんだよ」
「猶予ってなによ!? それじゃまるで、あかりが死んじゃうみたいじゃない。それにあたしには一時的な退院とは言ってないもの」
息が荒くなる。他人のために、ここまで真剣に生死について考えたのははじめてすぎて、感情のコントロールができない。
「パーティーはやる。おれたちで主催する。あかりには、おれへの想いを残して逝って欲しくない」
「なに勝手なことばっかり言ってるのよ? あんたにとってあかりはその程度だむたの? せめて、考えたくないけど最後まで好きでいさせてあげたらいいじゃないよ」
あかりの気持ちなんて、少しも考えてくれてないじゃない。
それなのに、自分だけ悟ったようなこと言って。ゆるせないっ。
「……アメリカに渡ることになったんだ。おれのドナーを探すために」
「あかりはどうするのよっ!?」
「あかりは移植に耐えられる体力がないんだ。それに渡米はオヤジが勝手に決めたことなんだ。裏側ではもう、動画投稿サイトを通じての募金活動もおこなわれてる。とめられないんだ」
自らの膝に頭を埋めるようにして、ともやは泣きじゃくった。
そんなの、あたしにもどうすることができないよ。
つづく