趣味、読書
少しでもあかりちゃんのようになりたい。
あかりちゃんみたいに、なんでもわかっていてもダマサれるような人になりたい。
赤の他人を笑わせたいと思うようなユーモアセンスが欲しい。
知識が欲しい。
芸人さんをテレビで観ても、あかりちゃんにはなれないと思う。
それならば。
古典落語の本を一冊、買ってもらった。難しい言葉がたくさん出てきて、辞書をひくようになった。
いずれ必要になるからと、電子辞書まで買ってもらえた。
正直に言うと、落語なんて興味もなかったし、どこがおもしろいのか、本を読んだだけではわからなくて、あかりちゃんにふだん読んでいる本を教えてもらった。
夏目漱石という難しそうな名前が出てきたけど、『吾輩は猫である』は、なんとなくわかったような気がして、何回も何回も繰り返し読んだ。
あかりちゃんに追いつきたい。
ともくんとお話したい。
ただそれだけのこと。
だから、知識が必要なの。
あたしには体の痛みがない。だから手に入れなくちゃならない、どうしても。
もっとたくさんの本を読んで、たくさんの感情を知りたい。
あかりちゃんが本当は今、なにをのぞんでいるのかを知りたい。
そうでなければ、あたしたちが出会った意味がわからなくなってしまう。
知識を。
感情を。
情緒を。
憐憫もかなしみも、憎さも全部全部、あたしの体中につめこんで、あかりちゃん以上のあたしになりたい。
あかりちゃんにはそんなことは言えないけど、でも、そうでなければいけないんだ。
知識は命。
湧き上がる泉のように、知識が欲しい。
そして、運が良ければあかりちゃんの病気を治せる者として生きたい。
こんなこと、恥ずかしくてお母さんにも言ったことはないけど。
かなえてみたいんだ。
決意を日記に書きとめたその時、あかりちゃんからメールが届いた。
やった。退院が決まったんだ!!
すぐにともくんに電話をした。
『もしもし?』
てっきりあかりの退院報告に舞い上がっていると思ったのに、どこか暗い声のともくんに、不安が隠せないままでいた。
つづく