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話、本気

 弱々しく廊下で待っているともくんに手を振ったあかりちゃんは、そのままの姿勢で眠りについた。


「ごめん。なんかタイミング悪かったみたい」

「いいよ。いつもそんなもんだから。菓子、食えるといいんだけどな」


 それを聞いたら今にも泣いてしまいそうで苦しくなった。


 病院って、残酷。人の命をたすけられなかったり、その裏側では産まれようとする命がある。


 世の中の不条理ってものを、少しだけ学んだ。


 暗い気持ちで病院から出たあたしたちは、なぜかまたコンビニに寄って、紅茶とプリンを買って、近くの公園のベンチに座って食べた。


 ともくんは写真通りの男の子で、無駄口をきかない。


 今はそれがうれしい。


 今のあたしは、なにをどう言ってもグチになってしまうから。  


 他人のグチなんて聞きたい人なんていないもんね。


 だからこそ、プリンのあまさに癒される。


 なのに、絶妙なタイミングでともくんが口を開くんだ。


「あかり、学校でうまくやってる?」


 あたしの頭に、無視されてる女の子を笑わせようとしたあかりちゃんが浮かんだけど、今はそれを飲み込んだ。


 ともくんだって、心臓の病気なんだ。


 しかも先天性の。


「うん。あかりちゃんかわいいから、男子にも人気あるよ」

「ウソつき」


 咄嗟(とっさ)についたウソがバレてあせる。


 そんなつもりなかった。ただ、クラスの男子にヤキモチを焼かせたいだけだったのに。


「あいつ、おれみたいなの笑わせようと必死になるだろう? それで自己満足して、自分が笑えないことに気づいてないんだ」


 ああ、なるほど。


 軽い嫉妬。


 最後のひと口。カラメルできるだけからめとった。


 あかりちゃんはいいな。ともくんはなんでもわかってくれてるんだ。


 でも……。


「バレたか」


 あたしには本当のことしか言えない。融通の利かない性格、大嫌い。


「だけど、あいつ最近笑うんだ。電話とかだけど、あんたの話してる時のあかり、すごく楽しそうにさ。だからサンキュウな」


 おれには、そこまでのことはできないから、なんて律儀に言い置いて。


 あかりちゃんもだけど、ともくんもすごく大人っぽい考え方をするんだなって、変なところで感心したりする。


 どうすれば彼らに追いつくことができるんだろう?


 あたしなんかがなんとかできる方法って、ないのかな?


「スマホとかって、持ってる?」

「へ?」


 不意を突かれておかしな返事をしてしまった。


「あるけど?」


 買ってもらったばっかりの、けっこう重いスマホ。


「連絡先交換しない? あかりが退院したら、びっくりパーティーやろうかなって思うんだ」

「いいかもしれない。でも、かえって心臓悪くしないかな?」

「そこは気をつける。それにあいつ、賢いから気づくの早いし、そこまで驚かないよ」

「なんでも知ってるんだ? あかりちゃんのこと」


 嫉妬。


 ジェラシーってやつだ。


「そこそこな」


 頭がぼんやりしてきたけど、連絡先は無事交換できた。


     つづく

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