ミルクティ、気まずい
病院に到着すると、ともくんがやたら慣れた調子で受け付けをすませて病室までたどり着いた。
なんらかの覚悟はしなければいけない。それがお見舞いだから。
深く深呼吸して、ともくんといっしょに病室に入ろうとした。そこで、ともくんにお菓子の入った袋を手渡される。
「あかり、出てこれないかもしれないから、これ渡しておいて。廊下で待ってるから」
女性の病室とあって、ともくんは遠慮をしているらしかった。わかった、とうなずいてから病室をうかがう。
六人部屋の窓際に、あかりちゃんがいた。
「こんにちは。すみません、失礼します」
ほかの患者さんの迷惑にならないように、病室の奥へと進んでゆく。
息をのんだ。
あかりちゃんは、体のあちこちに管を巻かれた状態で、ぐったりと横たわっている。
声をかけるのもはばかれる中、あかりちゃんの方が先に気がついた。
「ちかちゃんだ」
酸素を吸ってなお苦しそうな呼吸の合間でうれしそうな声をあげる。
「来ちゃった。コンビニでともくんと会ったの。廊下で待ってるけど、どうする?」
あかりちゃんは、力のない声で、ごめん、無理と答えた。
「そっか。あたしからはミルクティ。ともくんはお菓子を買ってきたから、よくなったら食べてね」
「ありがと」
弱々しい声。
あかりちゃんもともくんも、生まれてからずっとこんなことを繰り返しているのだとしたら、どんなに苦しいだろう。
あたしにはなにもわからないけど、荒い呼吸を繰り返すあかりちゃんを見ていると、ここにいるのがとても残酷に思えた。
病気がちなお母さんから生まれたとは思えないほど、あたしの体は健康だ。
たぶん、あたらしいお母さんもそうなんだろうな。
思い出したら胸がちくりと痛んだ。
あの女のことをあかりちゃんに聞いてもらおうとした自分が無神経すぎて笑えない。
今を必死に生きているあかりちゃんを前に、これからあかちゃんを産もうとしている人の話をしようとしていたなんて、考えただけでぞっとする。
その半面、ともだちなんだからそのくらいの話はしてもいいような気もしていたけれど、それでもやっぱりありえない。
「……じゃあ、あたし帰るね」
「ちかちゃん。ありがと。ともくんにもありがとって、伝えて」
「いいよ」
なんの脈絡もなく、またね、と言いかけた口を塞ぐことができなくて、また自己嫌悪におちいった。
あかちゃんにとってもまたがいつになるのか、あたしは知らない。
ただ、今日会ったばかりのともくんが廊下で待っていてくれなかったら、きっとあたし、めちゃくちゃになっていたと思う。
つづく