第四章:「卒業式のカミングアウト」
春先よりもさらに温かい陽気が、卒業式の朝を包んでいた。桜ヶ丘高校の体育館には、白いスーツや着物、袴姿の生徒たちが集まり、期待と少しの寂しさが交錯している。壇上には校長先生、教職員、そして養護教諭・藤沢先生も華やかな装いで並んでいた。
真希は式典の直前、胸ポケットにそっと折りたたんだメモを忍ばせた。それは、これからクラスみんなに伝えたい言葉をしたためた小さな紙片――自分の声で、彼女たちに届いてほしい想いが込められていた。
1. 卒業証書とともに
式のクライマックス、校長先生から証書を授与された真希は、呼名を聞いて一歩前へ進んだ。華やかな拍手に包まれながら証書を受け取り、深くお辞儀をする。返る拍手の余韻の中、担任の小野田先生がステージ横で目を細め、うなずいた。
席に戻ってきた真希は、鞄からそっとメモを取り出すと、深く息を吸い込んだ。卒業生全員への送辞が終わり、歓声が落ち着いたそのほんの一瞬を狙って、真希はマイクに向かって立ち上がった。
「……少し、だけ、話をさせてください」
体育館内がざわつく。生徒たちも思いがけない瞬間に驚きの表情を見せる。
「私は中学のころから『夜尿症』という病気を抱えながら、高校生活を送ってきました。今まで恥ずかしくて、誰にも言えないまま過ごしてきましたが、今日ここで、皆さんに知ってほしいと思いました」
真希の声は最初、震えていたものの、一語一句に確かな想いが宿っていった。
「夜、怖くて眠れない日々がありました。制服のリボンを握りしめ、人目を避けてトイレに通った日もありました。でも、保健室の藤沢先生、そして由佳や笹原、クラスのみんなの支えがあったから、私はここまで来ることができました」
2. 伝わる想い
会場は静寂に包まれ、誰もが真希の言葉に耳を傾けている。
「同じ悩みを抱える人は、私以外にもきっといると思います。でも、ひとりで抱え込む必要はありません。もし勇気が出せたら、先生や信頼できる友達に、話してみてほしい。誰かにわかってもらえるだけで、心はずっと軽くなります」
言い終えると、真希は深々と頭を下げた。しばらくの間、沈黙が続いたあと、会場の後ろから大きな拍手が巻き起こる。
由佳が最前列で涙を浮かべながら拍手を送り、笹原も目を潤ませて頷いている。クラスメイトたちも次々と拍手を重ね、やがて体育館中に温かな祝福の拍手が満ちていった。
3. 未来へのスタート
式の後。教室では、小野田先生や藤沢先生を囲んで笑顔と涙が交錯していた。
「真希ちゃん、本当に立派だったよ」「お話、すごく勇気づけられた」
クラスメイトたちの声が次々に寄せられ、真希の胸は愛でいっぱいになった。
藤沢先生がそっと声をかける。「これからも、何かあったらいつでも連絡してね。あなたの“言葉”が、きっと誰かの助けになりますよ」
真希は深く頷き、未来への決意を新たにした。
――夜尿症を乗り越えた私だからこそ、届けられる言葉がある。――これから先も、小さな声に耳を澄ませ、手を差し伸べていきたい。
教室の窓から見える校庭は、柔らかな春の日差しに包まれている。新たな一歩を踏み出す真希の背中を、桜の花びらがそっと後押ししていた。
高校生編では、おねしょ(夜尿症)に悩み1人で抱え込んでいた真希が同じ悩みを抱える仲間と出会い、真希の悩みを知っても馬鹿にする事なく変わらず仲良くしてくれた友人達と過ごした時間が真希を成長させ、今度は自分が誰かを支えたいとの思いから、卒業式で皆んなの前で夜尿症をカミングアウトした。
夜尿症と言う中々人には言えない病院を抱えながらも、仲間達と出会い精神的に成長していく真希をこれからも応援してくださいますと嬉しいです。
大学生編も色々な出会いをしながら成長し夜尿症と向き合う真希を描いて行きますので期待していてください。
大学生編へ続く