第二章:「秘密と手紙」
放課後の図書室。真希は窓際の席に座り、小さなノートを開いていた。それは、自分だけの「記録帳」――毎朝、夜のことを記すページ。濡れていたかどうか、アラームで何回起きたか、心の調子はどうだったか。誰にも見せられないけれど、この記録帳だけは真希の味方だった。
最近は、濡れない日が少しずつ増えてきた。けれど、それでも“いつかまた失敗するかもしれない”という不安は、ずっと真希の心に影を落としていた。
「……真希?」
声の主に顔を上げると、そこには意外な人物が立っていた。クラスでいつも静かな男子・笹原だった。
「ここ、よく来てるよね。……ノート、何書いてるの?」
心臓がドクンと跳ねた。まさか、見られてた? いや、でも中身までは――
「……ちょっと、日記みたいなもの」
「へぇ。俺も……たまに書くんだ。落ち着くよね」
真希は驚いた。彼も、自分と似たような何かを抱えているのだろうか? その日以来、ふたりは時々図書室で顔を合わせるようになった。
ある日、笹原が小さな封筒を差し出した。
「これ……返事は、どっちでもいいから」
中には、一通の手紙。
真希へ
君が、笑ってても時々寂しそうに見える理由が少しだけ分かった気がする。
無理に言わなくていい。でも、もし君の秘密が、夜に関係してるなら……俺も小さい頃、似たような経験があった。
誰かと気持ちを分け合えるだけで、少し楽になることって、あると思う。
――笹原
手紙を読んで、真希は涙をこぼしそうになった。「私のこと、分かってくれる人なんていない」そう思っていた日々が、音を立てて崩れていく。
次の日、真希は自分の記録帳の最後のページにこう書いた。
誰かと、わかり合えるかもしれない。失敗しても、それでも前を向ける日が、少しずつ増えている。
今夜は、眠るのが少し怖くない。
(続く)




